宗教法人に税務調査は入るのか?

宗教法人に税務調査はあるのか

Q 宗教法人は法人税や固定資産税を払っていないと聞きました。不平等だと思いますが、非課税ということは、国税局や税務署が宗教法人に税務調査に入ることもないということでしょうか?
A 宗教法人にも税務調査は入ります。

このところ統一教会の問題が世間を騒がせています。
宗教法人と言えば、古くはオウム真理教の問題があったり、暴力団が休眠宗教法人を買い漁っているといった問題があったり、何かとマイナスイメージで語られることが多いですね。
また、宗教法人は税金を払っていないのはケシカラン!といった批判を最近よく耳にします。
私自身が国税局在籍時、宗教法人の税務調査を担当していた時期がありますので、その経験も交えながらお話していきたいと思います。
まず、「宗教法人は税金を払っていないのか?」という疑問から話を始めましょう。

宗教法人は税金を払っていないのか?

宗教法人が行う事業のすべてに税金がかからないわけではありません。
宗教法人が行なっているのは「収益事業」と「宗教行為」の2本柱。
「収益事業」に該当するものは法人税がかかります。

収益事業というのは、物品販売や不動産・駐車場の貸付、席貸し、旅館、飲食など34種類の業が国税庁で決められていて、これに該当すれば、税金を払わないといけません。
宗教法人の収益事業

例えば、よくお寺の境内で〇〇祭りといったイベントをやってたりしますよね。
あれは席貸しに該当するので、収益事業に該当します。
宿坊なんかで1泊1,000円を超える宿泊料がかかる場合なども収益事業。
境内の一部を時間単位で随時に駐車させるものや、月極で駐車させるものも駐車場業ということで、収益事業にあたります。

収益事業に該当しない、つまり「宗教行為」に該当すれば、課税はされません
では、どういったものが「宗教行為」なのか?

お守りやお札、破魔矢やおみくじを販売することは、物品販売ではなく、宗教行為に当たり、税金はかかりません
でも、絵葉書やろうそく、供花を販売することは、収益事業税金がかかります

コレ、微妙ですよね。
判断に迷うところですが、こう考えるとシンプルだという方法をお教えします。
例えば、「破魔矢」とか関西では「えべっさん」でいただく「福笹」を想像してください。
価格はピンキリありますけど、高価なものだと1万円とか2万円とかします。
この原価って、500円とか1,000円とかなわけです。
すごい利益率ですよ。でも、飛ぶように売れています。
これこそが宗教なわけです。
破魔矢や福笹そのものは、ほとんど価値のないものですけど、魔除けや商売繁盛の効果を信じて皆さん高額でも買います。
破魔矢

逆に絵葉書なんかは原価50円で売価100円。
利益率はそう高くない。
利益率が異常に高いものが「宗教行為」、利益率が一般社会と変わらないようなものは「収益事業」
そう覚えておいて間違いありません。

駐車場って、収益事業と申し上げましたよね。
その昔、神戸の有名な神社が、明らかに駐車場をしているのに、1時間ごとに神主が出てきて、駐車場の車に向かってお祓いをするんです。
それで、「これは駐車料を取っているのではなく、祈祷料をとっているのだ。だから宗教行為であり、非課税だ」と主張して、税務当局とやりあっていました。
こうした悪知恵を働かせる宗教者がいるから、「宗教法人=悪」のイメージを持たれるのだと思いましたね。

収益事業をしていなければ一切無税なのか?

実は、収益事業をしておらず、収益源はお布施だけって宗教法人は結構多いんです。
では、その住職たちが好き放題贅沢しても、無税なのかというと、そんなことはないんです。
住職たちは、その宗教法人から役員報酬という形で給料をもらう。
その給料に対して「源泉所得税」がかかる。
国税局や税務署は、この「源泉所得税」を切り口に、宗教法人の税務調査をしています。

一般の会社であれば、その会社が儲かっていれば、まず調査官は法人税を確認し、脱税したお金を社長が使ったとなれば、社長に賞与が払われたということで源泉所得税を課税する、そんな流れです。
が、宗教法人の場合、いくらお布施や賽銭の収入が多くても、その段階では一切税金が発生しません
その収入から住職がいくら使ったか、これに税金がかかるということですね。
宗教法人と個人を区分せよ

しかし、住職がいくら使ったかなんて、どうやって税務調査で確認するのでしょう?

宗教法人への税務調査

宗教法人に(収益事業を除いて)法人税がかからないといっても、収支計算書は作成しなくてはいけないことになっています。
まず、その収支計算書の布施収入等に漏れがないかをチェックします。

どうやってチェックするか。
これは過去帳や月命日整理簿といったものから、葬儀の日や初七日、四十九日、月命日や〇回忌の日を割り出すんですね。

そこから、銀行口座等も併せてチェックしていきます。お布施の封筒を整理して保管している住職が多いので、それもチェックします。
封筒のオモテに「お布施・お車代」、ウラに手書きで15,000円なんて書いてあるけど、収支内訳には載っていない。
「宗教法人の収支から漏れている以上、これは住職のお金ですね?」
ここで初めて源泉所得税の課税です。

こうしたお布施の他にお寺の場合は、護持費(檀家の年会費)やお墓を管理している場合は供養料などが収入源ですから、これをチェックします。
神社の場合は、祈祷料、お祭りの席貸しや賽銭、御朱印・授与品、地元の寄り合いがあった際の部屋貸しなんていう雑収入もチェックします。

いろんなチェックをしますが、宗教法人への税務調査は、普通の会社の税務調査よりも格段に難しい
普通の会社では、モノやサービスを売った場合、それを買った人(会社)がいます。
買った人(会社)側から見れば、それは仕入れであり、経費ですから、もらった領収書や請求書の保管とともに帳簿に記載されます。

その買った人(会社)の調査をすれば、たちどころに売った側の会社がいくら売ったか確認することができます(これを「反面調査」と言います)。
しかし宗教法人の場合、もらうのは「お布施」です。
お布施

「お布施」というのは、「労務やサービスの対価」ではなく、「供養してもらうことへの感謝や、お世話になっている寺院への援助の気持ちを表すために渡す寄付金」なんですね。
ですから、宗教法人は請求書の発行もしなければ、お布施を渡す方も「領収書をください」とは言いません。

金銭の授受に対して、何ら証拠が残らない。
加えて、国税当局は反面調査をする権限はありますが、檀家や故人宅に赴いて「お寺さんに葬儀の時にいくらお布施やお車代を渡しましたか?」とはまず聞きにいきません。

ですから、どうしても収支を確認する調査に加えて、住職(神主)やその家族の生活状況を確認する調査をあわせて行う必要があるんですね。
例えば、「住職と奥さんに支払われている給与が年間240万円なのに子供2人とも私立の進学校や塾に行かせている。そのお金はどこから出ているのか?」といった確認ですね。
子弟への教育費は宗教法人でも課税

坊主丸儲けなのか?

私が宗教法人の調査に関わるようになった時、世間一般の方と同様「宗教法人なんて坊主丸儲けだろ!バブルのころ、祇園で舞妓を侍らしている多くはお寺の坊主だっただろ!」といった悪いイメージも持っていました。
しかし、私が税務調査を実施した大半の住職や神主は、檀家の困りごとを聞いてあげたり、「書道教室」や「そろばん教室」「茶道教室」などを開催したりするなど、地域社会のために貢献しておられ、話をしていても「立派だな」と感じる方が多く、従前から持っていた悪いイメージは間違っていたと感じました。

また、地方の寺や神社の大半は、「儲かっている」といったようなことはなく、農協や市役所職員、学校教員などと掛け持ちをしたりして、何とか檀家のために宗教法人を維持しているといった状態でした。
実際、浄土真宗本願寺派が行なった調査では、なんと半数の寺が売上げ400万円未満!
あくまでも売上げですから、経費を差し引いた住職の
手取りはそれよりもっと低い金額になります。
お寺の場合、宗派によってお布施等の相場が異なるので一概には言えませんが、檀家数が200以上ないと、住職業だけで食べていくのは厳しい状況です。

そんな大きな規模のお寺って、かなり少数です。

宗教法人の「非課税」を全て「課税」にしたらどうなる?

宗教法人には固定資産税はかかりません。
まず、これを課税したら、どうなるか?
先程申し上げたとおり、神社の多くは収入なんてありませんから、大半の神社が取り壊されてしまうでしょうね。
また、お寺の宗教行為に法人税を課税したら、田舎のお寺さんは、無税でも生活できないわけですから、課税されると、ほぼ廃業せざるを得なくなるでしょうね。
田舎に住む人は、葬儀や盂蘭盆会(お盆のお参り)が出来ずに困ってしまうでしょう。
宗教にひれ伏す人々

まずは宗教法人の情報開示を

宗教法人が税制上優遇されていることは間違いありません。
世の中には必ずこうしたことに乗じて、悪いことをする輩がいます。
実態のない宗教法人を買い取って税金を払わない輩、収益事業を宗教行為と偽って申告をしなかったり誤魔化したりする輩…
こうした輩に目を光らせるには、次のようなことを徹底させる必要があります。

①規模に関わらず、文化庁への報告をきっちりさせること
②文化庁は、その報告内容を国民に開示すること
③基準を設け、大規模宗教法人には宗教行為、収益事業に関わらず、法人税を課税する
④申告内容に疑念があれば、税務調査を実施する

まず、現在の状況からお話ししますと、1995年の宗教法人法改正(オウム真理教がらみですね)で、収益事業を行っているか年間収入が8,000万円を超える場合、文化庁や都道府県の所轄庁に財務諸表を提出することになっているんです。
年間収入8,000万円超って寺社は相当少ないでしょうから、収益事業を行っていない宗教法人は野放しということになります。
また、仮に8,000万円を超えた場合でも各宗教法人がどんな収支状況なのか、文化庁は全く開示していません。
開示したら、「宗教法人が財務諸表を提出しなくなるかもしれない」といった理由で。

え?なんでそんな弱腰なんですか?
法律(宗教法人法第25条第3項・4項)で定められていることなのに、お願いベースなんですか?

文化庁は開示しないばかりか、内容のチェックも「信教の自由を脅かす」なんて理由でやっていない。
「信教の自由」をはき違えているとしか思えないです。
もう一度申し上げますが、宗教法人は様々な優遇措置(固定資産税非課税、宗教行為非課税、収益事業も経費を除いた所得のうち2割を事実上控除でき、残る8割にかかる法人税率も19%と、企業の法人税率(約23%)より低い)が与えられています。
ここに目を付けて、脱税したい輩やマネーロンダリングしたい輩が単立の(どこの宗派にも属さない)宗教法人を買い漁っている現状があります。

だからこそ、しっかりチェックしなきゃいけないんです。
宗教法人 脱税の記事
(朝日新聞記事引用:和歌山の宗教法人がお布施収入を帳簿に載せず、住職個人の預金に入金していたことにより源泉所得税を課税された)

宗教法人格を剥奪しても、任意団体として残るわけですから、何も信教の自由は脅かしていないわけです。
真面目にされている大半の宗教法人はしっかり守る、その反面、霊感商法や過大な寄付要求、脱税行為をする輩には懲罰をくだす。
宗教法人への問題意識が高まっている今だからこそ、政府は一時的なブームに終わらせずに、法律の改正とともに、文化庁と国税庁の連携を密にするなどして、しっかりとこの問題に対応すべきだと思いますね。

問い合わせ 入口基本ver 辻元税理士事務所
国税OB税理士による税務調査対策グループ

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