ドラマ「半沢直樹」、コロナ禍の中で陰鬱な気分を吹き飛ばしてくれましたね。
2020年を代表するドラマになったことは間違いないでしょう。
「死んでもヤダね‼」「施されたら施し返す。恩返しです!」など、吹き出してしまう名セリフが連発でしたね。
(TBSテレビ・日曜劇場「半沢直樹」キャプチャー画像より引用)
今回は、主役・半沢直樹ではなく、敵役の黒崎駿一にスポットを当ててみたいと思います。
ドラマでは、片岡愛之助が演じ、他のキャラクターに負けず劣らず強烈なキャラです。
スパイラルによるフォックスの逆買収に関しスパイラルのアドバイザーである東京セントラル証券への立ち入り検査で、3度目のVS半沢。
前シリーズでは大阪国税局査察部の統括調査官、金融庁の主任検査官、そして今回は証券取引等監視委員会の検査官で登場しました。
一体どんな人事なんだ?そんな出向があるのか?黒崎は一体何者なんだ?と疑問が出てきますね。
(TBSテレビ・日曜劇場「半沢直樹」キャプチャー画像より引用)
とにかくこの人、オネェ言葉で半沢に迫る姿がたまりませんが、これにはモデルがいるんですね。これについては後で触れたいと思います。
実は私は、小泉総理大臣の時代(2005年頃)に金融庁検査局の検査官をしていました。
これは、私が金融庁時代の名刺。金融庁のロゴマーク(FSA)がドラマでも愛之助のバックに映っていて、芸の細かさに笑ってしまいました。
金融庁はその昔、財務省(大蔵省)だった
本題に入る前に、金融庁っていう組織、皆さんあまりなじみがないでしょうから、歴史を少し解説しておきます。
金融庁は、もともとは大蔵省銀行局という大蔵省の中の1局に過ぎなかったんですね。
「護送船団方式」という言葉を聞いたことがある人も多いと思いますが、業界に脱落者が出ないように大蔵省が銀行の「箸の上げ下げまで指示する」、そんな関係性でした。
平成の世になり、バブルが崩壊し、銀行はどこも莫大な不良債権を抱え込みます。
97年には都銀の端くれだった北海道拓殖銀行と、四大証券の末席・山一證券が破綻します。監督している大蔵省への批判が高まる中、ダメ押しのごとく「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」が起こります。銀行が検査情報などを聞き出そうと、大蔵官僚を今でいうキャバクラで接待漬けにしていた実態が暴かれた事件です。
そんなこんなで、最大官庁である大蔵省から銀行局を分離させ、ガンガンに不良債権の摘発をやらせようという流れで誕生したのが金融庁です。
「ガンガンに摘発するぞ~!お~!」
でも、検査しようにも新しい官庁だから人がいないじゃん。
そこで、金融庁検査局には金融機関(多くは破綻した銀行・証券会社)から中途採用した元銀行(証券)マン、弁護士、不動産鑑定士、公認会計士、そして、私のような国税マンが集められたわけです。
当時は霞が関ビルディングの24階フロアが貸し切られ、広大なスペースに400名を超える検査官がおりました。これだけの検査官がワンフロアに見渡せる光景はなかなか壮観でしたね。
金融庁の横暴
私が、検査局に赴任した当時、金融庁は陰で「金融処分庁」とか「関東軍」と呼ばれ、銀行からすると「横暴」と映ったに違いありません。
なんせ「銀行なんて俺たちが見張っとかなきゃ何するか分からん連中だ!」っていう風潮でしたから、検査でも「こんな債務償還年数※28年なんていう債権は『ハケ(破綻懸念先)』です!金融検査マニュアルをちゃんと確認しているんですか!?」とビシバシ資産査定をしていました。
※債務償還年数…現在のキャッシュフローで借金を返し終わるのにかかる年数。何年以内なら「正常先」、「要注意先」といった債務者区分を大体決めていた
2005年5月に発売された週刊ダイヤモンドの特集「金融庁の横暴」。
実はこの記事の中に、「銀行員の匿名座談会」のページがあり、私のことが書かれている。
もちろん横暴な検査官として批判的に(笑)
金融庁がメガバンクUFJ銀行を潰した事件
当時、最も世間を騒がせていたのがUFJ事件。
日本最大のメガバンク・三菱UFJ銀行。私が検査官時代はUFJ銀行という2002年に大阪の三和銀行と名古屋の東海銀行が合併して出来たメガバンクでしたが、2003年から2004年にかけての金融庁特別検査で、多額の不良債権の処理不足が指摘されました。
しかし、当時の経営陣は責任を取らされる形での退陣を拒否し、徹底抗戦する作戦を取ります。
通常、こうした大きな案件では、政治家、キャリア官僚、現場のノンキャリア検査官の3つの足並みが揃わないものですが、この時はきっちり揃ってしまいました。
不良債権問題を処理したい小泉総理、メガバンクは2つか3つでいいという方針の竹中金融担当大臣といった政治家。ノーパンしゃぶしゃぶ事件の時に大蔵省は史上初めて地検特捜部に踏み込まれ、2名逮捕1名自殺に追い込まれましたが、その情報提供を積極的にしたのが、UFJ銀行早川常務。この行為を絶対に許さないと感じていたキャリア官僚。そして、通常銀行マンがひれ伏す検査の現場なのに、常に反抗的態度で接していたことを許さない!と感じていたノンキャリア検査官。
さらに、当時の特別検査のメンバーの半数近くは国税マンだったんですけど、国税マンたちも国税調査の際に非協力的な対応をしていた三和銀行(UFJ銀行の前身)を快く思っていなかったんですね。
半沢直樹の第一シリーズで片岡愛之助演じる黒崎主任検査官が銀行の地下倉庫に隠された検査書類(いわゆる『疎開資料』)を暴こうとするシーンがあります。
(TBSテレビ・日曜劇場「半沢直樹」キャプチャー画像より引用)
これはまさしくUFJ銀行の検査の時に「銀行の14階に不良債権に係る検査書類が隠されている。調べてください。」との内部告発により目黒主任検査官率いる検査チームがその存在を暴いたシーンを手本にしているんですね。
黒崎検査官のモデル
そう、15年前に雑誌などで辣腕検査官として知られた目黒謙一さんこそ、黒崎のモデルとなった人物です。実際の目黒さんはオネェでも何でもない、一見朴訥な雰囲気な人でしたが、資産査定となると、銀行マンが筋の通らない反論などしようものなら、ガンガン資産査定の仕方を説教するような、原理主義的な一面を持つ方でした。
銀行が出すお茶に手も付けない清廉さも相まって、銀行マンからは大変恐れられていましたね。(この記事を書くに当たって調べたところ、2019年12月にお亡くなりになられていました。謹んでご冥福をお祈りしたいと思います。)
結局、UFJ銀行はこの事件で検査忌避という罪名で逮捕者まで出し、東京三菱銀行に飲み込まれることになります。
半沢直樹のあり得ない検査シーン
半沢直樹で描かれた金融庁はデフォルメされた描写も多い。
例えば、黒崎が部下の検査官に、疎開資料を半沢の自宅に探しに行かせるというシーンがあるんですが、そんなことはあり得ないわけです。
銀行マンの自宅は、個人の家ですから、捜査令状なしには検査することなんてできません。
それ以前の問題として、金融庁には国税局のように反面調査(疑問点を解明するために、関係先を調査する調査手法)の権限はありません。
今回のシリーズでは、書類ではなく、クラウド上の隠しファイルを暴くという内容に進化していましたね。このシーンも会議室のガラス越しにファイルを探す黒崎とファイルの削除を指示する半沢の息をもつかせぬ「せめぎ合い」がハラハラさせられました。
しかし、実際の検査現場でファイル隠しの事実が見つかろうものなら、営業停止になる可能性は非常に高い。あんなあからさまに資料を隠すことはありえないでしょうね。
(TBSテレビ・日曜劇場「半沢直樹」キャプチャー画像より引用)
金融庁検査局は今はもうない
黒崎を金融庁(FSA)から証券取引等監視委員会(SEC)に移したのは、実は金融庁にはすでに検査局という部署がなくなってしまったからなんですね。
前述したように、これまで金融庁は検査で金融機関をガンガン締め上げていましたが、今では不良債権問題も解消し、ともに地方経済を盛り上げるために考えようという姿勢に変わったのです。
その結果、検査局は平成30年7月に廃止されました。
検査局が無くなってしまったのですから、黒崎は半沢を粘着質に追い詰めることができない。そこで、証券取引等監視委員会に出向です笑。
黒崎検査官はキャリアか?ノンキャリアか?
ここまで来て、本題。
黒崎はキャリア(国家公務員第一種採用者)かノンキャリア(国家公務員第二種・三種採用者)か?
これは簡単な質問なんですね。
彼は確実にノンキャリアです。
そもそも金融庁の検査局って、何年も検査という「技」を磨かなければならない職人技の集団。
キャリア官僚は2年か3年で部署が変わり、どんどん出世していきますから、検査という職人技ではノンキャリアにかなわない。なので、金融庁検査局はノンキャリアの牙城と言われていました。
公式サイトで黒崎は、「かつての金融庁検査で、当時の都市銀行だった大同銀行を破綻に追い込んだことで『やり過ぎ』と批判が起きたことから、ほとぼりが冷めるまで国税局に異動させられていた旧大蔵省銀行局出身の切れ者のエリート」と紹介されています。
しかし、キャリア官僚のエリートは検査局に配属されません。金融庁に在籍したとしても、法整備をしたり、国会対応をしたりする「バックオフィス」と呼ばれる総務企画局(今は総合政策局)や監督局に配属されるのが常です。
もっと言えば、本当のエリートキャリア官僚は、金融庁ではなく、王道である財務省に配置されるでしょうね。
とは言え、黒崎は、ノンキャリアでありながら、旧大蔵省銀行局に入省し、統括官級に出世しているというだけでも大した人物であることが分かります(前述の目黒さんも高卒で大蔵省入りしたノンキャリアのエースでした)。
前回のシリーズで、大阪国税局査察部に出向させられた黒崎。この人事については正直「?」マークがつきます。
なぜなら、金融庁検査局は先ほどお伝えしたとおり、人員が足らないので、大阪国税局から大勢の国税調査官を受け入れましたが、金融庁から国税局への出向という逆バージョンは聞いたことがありません。
金融庁と地方の財務局との人事交流は頻繁にありますから、それなら分かります。
でも、それじゃドラマにならないから、無理やり大阪国税局に出向させてしまったのでしょう。
不正を許さないノンキャリアの星、黒崎主任検査官は、半沢直樹には欠かせないキャラ。
オネェ言葉や、部下職員の急所掴みだけに注目するのではく、彼の仕事ぶりにも注目してあげてください。
JALの倒産がドラマでは…
半沢直樹の今シリーズ後半は、JAL…いや帝国航空の再建。
これも民主党の鳩山政権時に発足した前原国土交通大臣による私設機関「JAL再生タスクフォース」がモデル。
法的裏付けの無かったタスクフォースは、銀行の反発に合いながらも、公的資金の投入を提案し、最終的に2010年の会社更生法適用によるJAL倒産までこぎつけるという実話を手本にしています。
(白井大臣のセリフ、どこかで聞いたことあるセリフですね)
ドラマでは「帝国航空再生タスクフォース」を悪く描かないと面白くない。そこで、実際には「大幅な路線削減を人員削減、機材削減とセットで要求した」のはタスクフォースの方だったのに、なぜか半沢が航空会社幹部にこれらの痛みを伴う改革を迫っていましたね。
債権の7割カットを拒否する半沢は箕部幹事長や白井国土交通大臣から圧力をかけられることになります。
黒崎は「おたくらが無駄に政府を怒らせたせいで、徹底的にやらせてもらうから!」と再び半沢の前に立ちふさがります。
気脈を通じ合わせる半沢と黒崎
帝国航空への債権放棄を強引に推し進める幹事長・箕部に反発する半沢。
ドラマ終盤に向けて、半沢の敵役だった黒崎は、箕部の怪しい口座を追ったばかりに金融庁から国税庁に出向することになります。
同じ敵を追う者同士、半沢と黒崎は気脈を通じ合わせていくことになります。
(TBSテレビ・日曜劇場「半沢直樹」キャプチャー画像より引用)
戦う土俵は違っても正義感は同じということでしょう。
伊勢志摩エステートから紀本常務に振り込まれた金について、半沢が紀本常務に迫ります。
「証拠はあるのか!」と反論する紀本常務に、なぜか現れる国税庁・黒崎。
(TBSテレビ・日曜劇場「半沢直樹」キャプチャー画像より引用)
税務調査先でもない個人の銀行口座を復元して提示する行為は、完全に国税通則法違反ですけど、勢いで紀本常務に、箕部幹事長からの指示であったことを吐かせましたね。
♬助太刀するわよ 黒崎が~ってどういう立場で質問してるのか、よく分からなくなってきました(笑)
最後に、今回のドラマで黒崎がクローズアップされ、初めて金融庁や国税庁に興味を持った方もおられるでしょう。彼らは不夜城と言われる霞が関の官庁で日夜お国のために働いています。
優秀な彼らなら民間企業に就職した方がより給与をもらえたかもしれない。
何かと批判されることの多い公務員ですが、彼らを支えるものはやはり国家への忠誠心と正義感だと私は思います。
ドラマのラストで不敵な笑みを浮かべた半沢。もしかしたら続編があるかもしれませんね。
ドラマ「半沢直樹」の10年後がどうなっているかについて、現実の世界で起こったことを交えながら斬ってみました。
気になる方は「その後の半沢直樹★10年後、半沢は頭取に?帝国航空は?」をご覧ください。
最終話の黒崎。叱咤激励する黒崎と意外と素直な半沢にほっこり
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面白い‼️
酔っぱらって聞くのと違い活字になるとなおさら面白い‼️
黒崎のスピンオフが見てみたい‼️