銀行融資に強い決算書を作れ!

融資に強い決算書を作れ!

Q  弊社は製造業を営んでいますが、コロナ禍で業績が落ちた上、役員退職に伴う多額の退職金が発生し、今期は赤字予想です。このままでは銀行融資に影響するのでは、と心配しています。
銀行融資に影響させない、いい知恵はありませんか?
A  銀行が決算書のどの部分を見て、融資をしているかを理解すれば、心配無用です。

ご質問の社長のような方が悩まれた挙句、赤字決算であるにもかかわらず、無理やり黒字にする、いわゆる粉飾決算に手を染めるのを何度も見てきました。
「銀行に融資を引き揚げられては困る」という理由で、払わなくてもいい法人税を払う。
しかし、銀行は単純に黒字か赤字かを見ているわけではありません。
同じ決算内容でも、決算書の見せ方を工夫することで、銀行の評価が変わります。

銀行が御社の決算書のどこを見ているか、順を追って解説していきましょう。

銀行はまず営業利益を見る

皆さんは、ご自身の会社の決算書をじっくりとご覧になったことがありますか?
ここでは、決算書の中の「損益計算書」を見ていきます。
「損益計算書(P/L)」とは、いくら売上げがあって、いくら原価や経費を使って、最終的にいくら儲かったか(損したか)を表形式で示したもの。

損益計算書を改善


決算書サンプル
これが、ご質問者の会社の損益計算書。
確かに当期純利益がマイナス(赤字)になっています。
この何の工夫もない損益計算書を銀行マンが見た場合、追加融資は躊躇するかもしれませんね。

銀行マンが見ているのは、黄色マーカーが引いてある営業利益(または経常利益)。
銀行は融資をする際に、融資先ごとに「格付け(スコアリング)」をしています。
融資先格付け表
上から順に銀行が最も貸したい先①~⑥から融資対象外となる⑧以下まで11の分類に分けられます。
最も貸したい先である①に格付けされると金利は非常に低くなりますし、⑦に分類されると高金利で借りざるを得ません。
詳しい格付け方法は、ここでは割愛しますが、銀行が重視しているのは次の2項目。
①自己資本比率
②営業利益

まず、
①自己資本比率
とは、総資産に占める自己資本の割合(自己資本÷総資産)。
銀行が高く評価する会社というのは要するに借入金が少なくて、自己資本が多い会社ですね。

そして、
②営業利益とは、本業での利益。
所有不動産や株を売って利益が出たといった突発的な理由ではなく、本業でしっかり利益を稼いでいる会社も評価が高い。

①の自己資本比率は会社の体質を改善するのに数年を要しますが、②の営業利益は決算書の内容ではなく見た目を改善するだけで、増やすことができます。

決算書の見た目はすぐに改善できる

営業利益を増やすために、すべきことは次の3つです。
①売上原価に含まれている特別な原価を特別損失に移動
②営業外収益に含まれている賃貸収入などを売上高に移動
③販売管理費(経費)に含まれている特別な費用を特別損失に移動

先ほどの損益計算書にサンプルに①~③の作業をやってみましょう。
金融機関対策 決算書改善前と改善後(損益計算書)

まず、
特別な原価と言うと分かりにくいですが、例えば通常時には10万円(原価4万円)で売るものを季節外れ品や型落ち品ということで、バーゲン特価で5万円で売ったとしましょう。
普通なら売上げ5万円とするところですが、バーゲンという特別なイベントなのですから、売上10万円、棚卸資産処分損5万円と計上し、この5万円を特別損失とする。
結果、
5万円(売上げ)ー4万円(原価)=1万円(利益)
10万円(バーゲン無かりせば、計上された売上げ)ー5万円(棚卸資産処分損)ー4万円(原価)=1万円(利益)
利益は1万円で同じですよね。
こうすることで、売上金額が増える一方、原価ではなく、特別損失が増える
つまり営業利益は増えることになります。
次に
家賃収入などの副収入は営業外収入で計上していることが大半ですが、これを売上げに移動します。
最後に
販売費及び一般管理費、つまり経費の中で、普段は発生しない役員退職金や貸倒損失、災害による損失、定期的修繕ではない修繕費などを特別損失に移動します。

「こんなに勝手に勘定科目を動かしたら、税務署に目を付けられるのではないですか?」
こんな風に心配される社長がいらっしゃいますが、どちらの損益計算書でも「当期純利益」は同じなのですから「法人税」も同額。
税務署が目くじらを立てるのは法人税額を下げる行為があった時だけです。
「特別か否か」にルールがあるわけではありませんので、普段とは違う収益、経費と社長が考えるなら、それは特別損益で構いません。

貸借対照表を改善

ここまでは、「損益計算書」の見た目を変えることで、銀行の融資に使われる「格付け(スコアリング)」が改善されるノウハウを見てきました。
しかし、「損益計算書」は過去の通信簿のようなもので、現在の姿を反映するものではありません。
ここから見ていく「貸借対照表(B/S)」は、過去ではなく、その時点の姿を反映しています。

現金や預金などの資産がいくらあって、買掛金や借入金などの負債がいくらあるか、これを示したものが「貸借対照表」。
貸借対照表=サンプル

見やすいように色分けしていますが、皆さんの会社もこのような「貸借対照表」になっていると思います。
まず、「資産の部
「流動資産」として、現金、普通預金、定期預金、受取手形、売掛金、棚卸資産と勘定科目が並び、
続いて「固定資産」として、土地、建物、車両運搬具といった勘定科目が並んでいます。

これは、どういう順番に並んでいるかというと、現金にしやすい順番に並んでいるんです。
預金は引き出せばすぐに現金にできますし、売掛金も貸し倒れない限り近々現金にできる。
しかし、土地や建物はそうそうすぐに現金にできません。
資産については、上の科目にあるほど、銀行の格付けが上がるんです。
なぜか。
もし、御社が倒れそうになった時、銀行としてはすぐに回収したい。
土地や建物ではすぐに回収できませんが、普通預金ならすぐに回収できます。
「銀行とはなんて奴らだ!」と憤りを覚えるかもしれませんが、お金を貸す以上、それは当たり前のことなんですね。
陳腐化した棚卸資産などは、安売りしてでも現金化した方が銀行の格付けは上がるということを覚えておいてください。
次に「負債の部
負債には、買掛金や支払手形から、短期借入金、長期借入金まで勘定科目が並んでいます。
ちなみに、短期借入金とは1年以内という短期間に返済すべき借入金、長期借入金とは1年を超えて長期間で返済すべき借入金のこと。
これも、資金を調達しやすい順番。
こちらは下の科目にあるほど、銀行の格付けが上がります
買掛金や支払手形がたくさんあるより、長期借入金がたくさんある方が信用力があると見られることになります。
融資に強い決算書~勘定科目を移動させる~
銀行の格付けに「流動比率」というものがあります。
流動比率=流動資産÷流動負債
で求められますが、この数字が大きいほど資金繰りがきちんと回っていることを示します。
上の貸借対照表の場合だと、
流動資産17,600÷流動負債6,250=281%
かなり財務体質が良い会社で、低金利で借りられることになりますが、これがもし、短期借入金と長期借入金の数字が入れ替わっていたら
流動資産17,600÷流動負債16,250=108%
流動比率は一気に下がります
短期借入金の比重が上がるということが意味するのは、すぐに返さなくてはいけない借入金の返済に追われている状況だということ。
そういう会社は格付けが下がるということです。

これは、あくまでも銀行の格付けをあげるためには、こうした方が格付けが上がり、ひいては利息が下がるということを説明しています。
長期借入金は銀行の審査が厳しく、不動産の担保を求められることも多いといったデメリットもあるため、これらを勘案した上で判断していただきたいと思います。

まとめ

今回は、あくまで決算書をどう見せるかというポイントに絞ってご説明いたしました。
損益計算書については、社長ご自身がこうした視点を持っていれば、顧問税理士に「こういう形にしてほしい」と依頼することができます。
税理士から、このような提案をしてくれることはまずないと考えた方がいいでしょう。
なぜなら、税理士は申告書作成をすればそれでOKと考えている税理士が多いですし、そもそも金融機関からどう見られているかという視点が欠けている税理士も多いからなんですね。
税理士は勘定科目の移動はすぐに出来ますから、お願いしてみましょう。
貸借対照表については、小手先でいじることは出来ませんが、銀行の格付けとは「銀行にとって都合の良い貸付先の順位なんだ」ということを理解し、それに合わせていく(不要な不動産を売却したり、短期より長期で融資を受けたりする)ことで利息が下がるという意識を持つことが重要です。

問い合わせ 入口基本ver 辻元税理士事務所

国税OB税理士による税務調査対策グループ

 

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