飲食店で売上げを抜いたらバレるか?

飲食店で売上げを抜いたら税務調査でバレるか?

Q 居酒屋店を経営しています。本当の年間売上げは5,000万円ほどですが、毎日3万円を売上げから抜いて、申告上の売上げは4,000万円で申告しています。いまだに税務署が調査に来る様子はありませんが、調査に入られる可能性はあるでしょうか。

A 確定的なことは言えませんが、税務調査は近い将来あるものと思われます。

飲食店への税務調査は、私自身が相当数行いました。
その経験からすると、御社の規模で、毎年1000万円を売上げから抜いていると、利益率が正しく申告している店とは大きく違ってきているはずです。
ざっくり言えば、利益率(ここで言う利益率に経費を含めない)が普通は65%あるはずなのに、それが56%になっている。
原価から逆算すれば売上げベースで1,000万円抜いているなという目星が申告書を見るだけで、ついてしまいます。

目星をつけた店には実際に客として足を運ぶ(これを「内偵調査」と言います。)。

客の中に税務職員が紛れ込んでいる

調査官は他の客に紛れ込んで、ビールは飲むけど、酔わない程度に飲んで、レジ打ちの様子、従業員の数、客数、客単価、領収書を発行しているか、予約を受けたらどうしてるか、といったことをつぶさに確認しています。
開店から閉店まで調査官を替えて見ていることもあります。
飲食店の風景

そのようにして確認した結果、一日の総客数×客単価で計算すると一日の推定売上げ17万円弱。
あれれ?申告では一日の売上げは13万円ちょっとのはずなのに、少なくね?
計算すると、一日で大体3万円ちょいおかしい。年間約1,000万円おかしい。

少し様子を見て(寝かせておいて)、その間に内偵調査を繰り返し、社長の家族構成や自宅の様子を見に行こうかな、となるわけです。
社長の家族構成や、奥様のパート先などは市役所に問い合わせれば、住民票や給与報告書からすぐに分かりますし、社長の確定申告書で住宅取得控除をしていれば、住宅ローンを組んでいる銀行も分かります。
持ち家であれば、不動産の登記簿謄本を請求すれば、いつその不動産を手に入れたか、担保を取っている銀行も分かります。

税務署はこうして寝かせている案件を常に持っていて、情報収集しています。

実際に調査が始まると、

● 内偵調査の時に調査官が飲み食いした売上げは計上されているか
● 予約帳に記載されている売上げは計上されているか
● レジから売上計上しているなら、閉店間際に入店した客やテイクアウト分の売上げを抜いていないか
 メイン商材の仕入れと実際の売上げはひも付きになっているか
などを確認していきます。

あわせて、社長とその家族の生活状況も確認します。
社長への報酬が年間400万円しかないのに、子供は二人とも私立の進学校へ通ってる、とか、ベンツを乗り回しているとか、年間200万円の住宅ローンを返済しているとか…
それじゃ生活できないですよね?あなた、霞を食べて生きてますの?」と詰め寄られることになります。

売上げだけじゃなく、生活状況もチェックしている

所得税を低く抑えたいと思って、役員報酬を低く設定していると、こういうことになるので注意が必要です。
ここまで読んでいただければ、お客様の中に税務調査官が紛れ込んでいる可能性があることはお分かりいただけたでしょう。
税務調査官は実際にお店に運ぶだけではありません。
食べログやHOT-PEPPERなどは必ずチェックしていますし、社長のFACEBOOKやインスタなどもチェックしています。
どんな生活状況なのか、飲食店は流行っているのか、様々な媒体からもチェックしているのです。
注意が必要なのは、飲食店が発行した領収書。
この領収書は、飲み食いをした会社の交際費や福利厚生費として計上され、経費の証拠として保存されることになります。
その会社への税務調査の時には、飲食店へ現金で支払った領収書をチェックして、経費が正しいかを確認するとともに、これを調査資料化して、その飲食店への税務調査の時に役立てられます。
その領収書の売上げが計上されていなければ、アウトです。

売上げ規模が小さければ税務調査は来ないのか

一般的に「売上げが3,000万円にも満たない会社に税務調査は来ない」という噂は、当たらずとも遠からずです。
売上げが3,000万円にも満たないということは、社員は一人か二人、経費をすべて合計しても1,000万円にもいかなければ、正直に言って、税務調査で確認するところがありません。
確認してもすぐに終わってしまいますし、経費に個人的な費用が紛れていることを把握しました!といっても、せいぜい数十万円にとどまるでしょう。
そんな小規模な会社に調査の時間を割いていられない。
しかし、飲食業のような現収法人(税務署では飲食業や風俗業、理美容業など、現金で収入を得る会社を「現収法人」(現金収入法人)と呼びます)の場合、この法則は当てはまりません。
なぜなら、調査先を選ぶ基準となるべき売上げを抜いている可能性が高いのですから、これが低いから調査に行かない、とはなりません。
飲食業などの現金商売は、売上げ規模が小さくても税務調査はやってきます。
実際に私が調査官時代は、売上げ3,000万円と申告している飲食店が、実際には売上げ8,000万円を稼いでいて、3年さかのぼって1億5千万円の売上除外という大型事案になったことがあります。
売上げを半分以上抜いてバレないとでも思ったのでしょうか。
この社長は「売上げを小さくしておけば、税務署は調査に来ないと思った。」と言っていましたが、税務署をナメすぎてはいけません
銭ゲバスフィンクス

ビール会社からの協賛金は抜くな

飲食店の税務調査先を選ぶ際には、繁盛店か?レジ打ちはしているか?社長の生活状況はどうか?といったことを確認しながら選んでいきます。
選ぶ段階で、必ずチェックするものがあります。
調査資料です。
調査資料には、先ほど申し上げたとおり、飲食した客の会社で交際費に上がっていた領収書や、調査官がプライベートで訪れた際の領収書や情報(「テイクアウトをしていた」とか「お祭りに出店していた」とか「求人広告を出していた」など)がたくさん蓄積されています。
いずれも税務調査の参考にはなるのですが、調査に入る前にすでに不正経理が分かっているとしたら、どうでしょう?
調査官は絶対、調査に行きますよね?
この「不正経理をしている可能性が高いぞ!」という資料を「重要資料せん」と言います。
飲食店の「重要資料せん」で最も多いのが、ビール会社の協賛金です。

「協賛金」というのは、ビール会社が居酒屋に対して、居酒屋開業時にビール会社を決めてもらったお礼に出すものや、一定数量以上ビールを売り上げた場合に渡すお金のこと。
ビールサーバー
ビール会社にも税務調査は入ります。
その際、販売促進費として計上されている協賛金の支出先については、すべて資料化します。
法人経営となっている居酒屋の振込先が個人名義になっている、あるいは個人事業者の居酒屋の振込先が通常の売上げ入金口座とは異なる、そうした飲食店については、この「重要資料せん」という資料を切るのです。

この資料があれば、調査をする前に不正経理を行っていることがほぼ確実なわけですから、調査官としては楽なこと、この上ない!
飲食店の社長が自ら税務調査に来てくれ!と叫んでいるようなものです。
調査官は「鴨が葱を背負って来よったな」と舌なめずりをしていることでしょう。

こうした行為は「本来法人(あるいは個人事業)の売上げに当然計上すべき(事業から発生した収益なので雑収入ですね)収益を、故意に事業とは無関係の経営者個人名義の預金に振り込むよう指定しているわけですから、言い訳のしようがありません。

100%バレますし、100%重加算税の対象となります

いかがでしょう。飲食店への税務調査は税務署にとっても大変な作業になりますので、他の業種の税務調査に比べてかなり時間を割きます。

こうして行われる税務調査の結果は、調査官の能力、対応する税理士の能力・交渉力によって左右される部分が非常に大きいと言えます。

国税OB税理士による税務調査対策グループ
問い合わせ 入口基本ver 辻元税理士事務所

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