インボイスに抜け道はあるのか?ベストアンサーとは?

インボイスに抜け道はあるのか?

Q 不動産賃貸業(事務所賃貸)をしています。売上げが1,000万円にも満たなかったので、これまで免税事業者でやってきました。
借主さんに対しては消費税を上乗せして請求してきましたが、消費税インボイス制度が導入されると、消費税を上乗せするわけにはいかず、借主さんと話し合う必要が出てきます。どうすれば、最も手元に残るお金が多いか、教えてください。
A インボイスの経過措置や簡易課税をうまく使って、手元に残るお金の最大化を図りましょう。

インボイスって何?

まずはインボイスって何なの?というところから話を始めましょう。

1インボイスとは

インボイス制度を簡単に説明すると「正確な消費税額を次の事業者に伝えるための手段で、これからはインボイス(国のお墨付き請求書)で請求されないと事業者は仕入税額控除ができませんよ」ってこと。
正式には「適格請求書保存方式」と言います。
消費税は「売った時に預かった消費税」から「仕入や経費を払った時に支払った消費税」を差し引いて納税額を計算します。

先ほど所得税や法人税で言うところの経費っていうのが、消費税特有の言葉で「仕入税額控除」と言いますが、これが「仕入や経費を払った時に支払った消費税」を指します。
これまでは、国のお墨付きがなくても、つまり仕入や経費を払ったらそれがどんな請求書だろうが、経費(仕入税額控除)にできていたんですよ。

仕入税額控除って言うと混乱する人がいるので、しばらく「経費」って言いますね。

どんな請求書だろうが」って一体どういうこと?

たとえば、小規模な商いをしている事業者だとか、設立してすぐの会社とかは消費税を合法的に支払っていないんですけど、彼らが発行する請求書には消費税がオンされている(はっきり書いてなくても税込み扱いになってる)。
てことは、消費税を払った側は経費にしているのに、消費税もらった側はこれを売上げにしていないってことですよ。合法的にね。

これがいわゆる「益税問題」ってやつで、預かっているだけの消費税を払わずにポッポナイナイできていた。

悪そうに書いていますけど、私のような税理士も開業1年目や2年目はクライアントに消費税を請求していますけど、合法的に払ってませんでしたから、悪いことではなかったんです。
でも、消費税が導入されて30年経って、さすがにこのままではまずいだろうってことで「インボイス制度」が導入されることになりました。
経費にしたいなら、ちゃんと消費税を払っている事業者相手のものしかさせませんよ、と。

そう、インボイス制度とはズバリ「益税を無くす制度」。
これが2023年10月から施行されます。
インボイス 見本
これがインボイス制度導入後、登録事業者が発行する請求書(インボイス)。登録番号など記載事項が定められている。

2免税事業者(売り手)側の問題点

これまで、免税事業者でも普通に消費税をもらっていましたよね。
でも、インボイス制度導入後は、免税事業者のままだと、インボイスっていうお国のお墨付き請求書が発行できなくなる。
てことは、買い手は買ったはいいけど、本来売り手が負担すべき消費税を買い手が負担しなきゃいけない。

分かりやすいように図で説明していきますね。
インボイス 課税のイメージ1
インボイス制度が導入される前は、A社からモノを購入していたB社は、A社が消費税を支払っていようがいまいが、請求されていた330万円のうち、消費税分の30万円は消費税から控除できました。
ところが、インボイス制度導入後は、買い手であるB社は、A社がお国のお墨付き請求書であるインボイスを発行してくれないばかりに、これまで経費(仕入税額控除ね)にできていた30万円を控除できなくなって、負担が増えます。

そうなると「免税事業者との取引を切る」という判断をする可能性がでてきます。
同じ330万円支払うのでも、課税事業者から買ったほうが、B社は消費税分30万円得をすることになるからです。

それは困る!とインボイスの登録をして、インボイスを発行すると、今度は売り手であるA社は消費税の負担が増えることになります。
A社は免税事業者。ということは多くは小規模事業者でしょうから、消費税の負担は重くのしかかることになります。

3課税事業者(買い手)側の問題点

これは、先ほども触れましたが、免税事業者から品物や報酬を支払っても経費(仕入税額控除)にできない。
売り手への支払いが「給与か外注費か」という議論をずっと続けてきた業種、例えば建設業、土木業、理美容業などは特に対策が必要になります。

4インボイスなんて無関係の業種とは

インボイスとは、売った人が消費税をキチンと払っているかどうかを明らかにする請求書のこと、でしたよね。
何のために明らかにするのかっていうと、買った人が経費(仕入税額控除)にしたいからです。
でも、買った人がそれを経費にしなければ(消費税の仕入税額控除にしなければ)、特にインボイスの登録をしなくてもいいってことですよね。

例えば、学習塾。
子供を学習塾に通わせる費用を経費にする人はいません。
そもそもそんなもの、経費になりませんからね。

なので、小規模な学習塾はインボイスに登録をしなくても、買い手である親御さんから「インボイスじゃないのに消費税を取ってるじゃないか!」と文句を言われることはありません。
混乱する人がいるんですけど、別にインボイスじゃなく、従来通りの請求書でも消費税は取っていいんです。
けど、その消費税を負担することになる買い手から文句が出るでしょう、ということなんです。

お得意様が「(経費にするから)領収書をくれ」と言われない業種の方(会社)はインボイス登録する必要なし
学習塾の他にもパチンコ屋、ゲームセンター、老人ホーム、理美容店、八百屋・魚屋なんかは登録する必要はないでしょうね。
医者なんかも会社から健康診断を請けているところ以外は要らないでしょうね。

じゃあ、どうする?

さて、ここまで読んできて、何とかしなきゃなと考えた結果、ヤバいかなと思いつつ、次のような対策を取る方も出てくるでしょう。
その場合、どうなるかも含めて見ていきましょう。

税法無知作戦(アホなふり)

売り手側が免税事業者なのに、買い手側は、従来通り、消費税の課税仕入れにしてしまおうと考えたとしましょう。
「売り手」と言うと分かりにくいですが、例えば給与扱いにするか外注扱いにするか微妙な外注先(分かりやすい例として「ひとり親方」を挙げておきます)に外注費を支払っていたとしましょう。
このひとり親方は小規模事業者ですから、当然免税事業者で消費税なんて払っていないのは一目瞭然。
「買い手」である会社は、このひとり親方がインボイス登録なんてするわけないと見越して、シレ~っとインボイス登録業者であるかのように全額消費税の仕入税額控除をする。
インボイス登録業者ではないのに、消費税の課税仕入れにしていることがバレるのは、税務調査の場面

なので、バレるまでインボイス制度導入前の状態のまま、税法が変わったことを知らないふりをして続けてしまう作戦ですね。
税務調査に入られるとは限りませんので、そのまま通ればラッキー。

実際問題、税務調査の現状を考えた時、全ての納税者に調査に行くわけにはいきませんから、このように考える人が出てきても不思議ではありません。

また、仮に税務調査を受けることになった際に、全ての仕入先、経費の支払先がインボイス登録業者であるか否かを確認することも、難しいかもしれません。

私が調査官なら、大手の取引先は無視して、小規模の取引先を何件か抽出して請求書をチェックし、インボイスではなく、請求書で請求しているのに仕入れ税額控除をしていたら、消費税の否認をするでしょうね。
さらに、時間が許せば、インボイスを発行している取引先が本当に登録業者かを「適格請求書発行事業者公表サイト」で確認するでしょう。

このインボイス登録業者か否かをサイトでチェックする作業は、本来は納税者が行うべき作業です。
適格請求書発行事業者公表サイト

なぜなら、取引先がインボイスを偽造していたとしても、税務調査の際には自らの消費税が否認されてしまうからです。
ちなみに、インボイスを偽造した取引先は、消費税法57条の5「インボイス類似書類発行」の罰則が適用されます。


消費税法57条の5「適格請求書類似書類等の交付の禁止」
適格請求書発行事業者以外の者は、適格請求書発行事業者が作成した適格請求書又は適格簡易請求書であると誤認されるおそれのある表示をした書類を他の者に対して交付し、又は提供してはならない


 つまり、免税事業者や課税事業者だけど登録を失念していた(あるいは故意に登録をしていなかった)事業者は、インボイスと誤解される請求書は発行してはダメだ、ということです。
そして、違反した場合は「一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」という罰則もあります。
「インボイス発行事業者の登録をしていないのに、請求書に登録番号を記載すること」は100%アウトになります。

話を元に戻します。
消費税を否認されたら、当然、消費税の追徴課税を受けるとともに、過少申告加算税や延滞税などのペナルティが生じます。
危ない橋を渡るの上等!という方は構いませんが、税務署にバレたらヤバいなと思いながら、経営するのは精神衛生上良くないと思いますね。

経過措置を知ろう

「インボイスで益税が無くなる!さぁどうする?アホなふりしとく?いや、リスクがあるじゃないですか」というところまで話を進めてきました。
でも、このインボイス制度、実は急に導入されるわけじゃないんです。

どういうことか、説明していきます。

制度導入後は、インボイス登録事業者でない免税事業者からモノを仕入れたり、経費を払ったりしても、消費税の課税仕入れができない。
これを急にやり始めたら、現場は大混乱になるでしょう。
多くの小規模事業者は、令和5年になっても、「インボイスって何のコト?」って反応でしょうからね。

そこで、令和8年9月までの3年間は免税事業者から仕入れても、従来の80%の消費税仕入税額控除を認めてあげる。
加えて次の3年間である令和8年10月から令和11年9月までは従来の50%の消費税仕入税額控除を認めてあげる、そんな風に制度が決まっています。

インボイス制度の経過措置
しばらく多少の益税は認めてあげるよ、とお目こぼししてくれているんです。

ベストアンサー

ここからは、私が考えるベストアンサーをご紹介します。
結論を先に言いますと、先程の経過措置と簡易課税選択を組み合わせて、着地をしていく作戦です。

ご質問者(A社とします)は、不動産賃貸業で事務所貸しをしていらっしゃいます。
これまでは免税事業者で、借主であるB社から家賃月20万円と消費税2万円の計22万円を毎月受け取っていました。

インボイス インボイス制度前
ところが、インボイス制度後は、借主であるB社から「お宅の消費税をウチが支払うのはおかしいでしょう。消費税分を値下げするか、インボイス登録をしてくださいよ」と苦情が来ます。
そこで、インボイス経過措置があることを伝えて、「当面インボイス登録をしませんが、少し値引きします。御社が支払う金額はほぼ変わらないはずです。」と交渉してみましょう。

インボイス インボイス制度後1
令和8年9月までは、A社は消費税の免税事業者のまま(消費税を支払うことなく)、月5千円(年6万円)取り分が少なくなるだけで済みましたね。
令和11年9月までの3年間も同じ要領で、値引きの交渉をします。
インボイス インボイス制度導入後2NEW

さらに3年間。当初の取り分からすると、月1万円(年12万円)取り分は減りましたが、何も対策を取らない(消費税24万円を素直に支払う)よりは良い結果になりました。

そして、令和11年の夏あたりになれば、いよいよ税務署対策です。
インボイス登録事業者になるには、登録の1ヶ月前までに登録申請をすることになっていますから、10月からするなら、8月末日までに登録申請(適格請求書発行事業者の登録申請書)をすれば大丈夫。
次に、登録をする日を含む決算期までに簡易課税選択届出書を提出します。

簡易課税制度というのは、基準期間(2期前)の課税売上高が5,000万円以下であるという条件はありますが、売上高の一定割合を簡易的に仕入税額控除を認めてくれる制度。
簡易課税の事業区分
支払うべき消費税=課税売上に係る消費税額-課税仕入れ等に係る消費税額(仕入控除税額) です。
そして、簡易課税の場合は、
仕入控除税額 = 課税標準額に対する消費税 × みなし仕入率

不動産賃貸業なら第6種に該当し、売上高の40%を仕入税額控除として認めてもらえる。
正直、不動産賃貸業なんて主な経費は固定資産税、減価償却費、人件費なんていう消費税がかからないものばかりですから、売上高の40%も仕入税額控除を認めてもらえるのはお得です。

インボイス 制度本格導入後の対応

B社には、令和11年10月から課税事業者になった旨を伝え、値引き前の賃料に戻してもらいます。
以前のように消費税分の年24万円が入ってきますよね。そして、簡易課税で申告。
その結果、A社は消費税24万円をそのまま払うのではなく、税務署には14.4万円支払うだけで済みました。
要するに、受け取った消費税をそのまま税務署に払わなくてもいいということ。
つまり益税が手元に残るということですね。

参考までに、免税事業者の方がインボイス登録事業者になり、簡易課税を選択した場合、どれくらい消費税をしはらうことになるか、次のチャートに当てはめていけば、分かります。

インボイス 免税事業者が課税事業者になれば消費税いくら支払うことになる

まとめ

ここまで、インボイス制度にいかに対応していくかを見てきました。
私なりのベストアンサーを書いていますが、税制の問題というよりも小規模事業者にとっては、値決めの問題なんです。
今回の例では買い手との交渉の際に売り手は値引いていますけど、別に買い手から「値引いてくれ」と言われなければ、値引かなくてもいいんです。
インボイスの制度導入までには今しばらく時間があります。
しかし、まだ先だろうと高を括らないことです。
値決めや消費税とどう向き合うかという対策は早めに越したことはないのです。

問い合わせ 入口基本ver 辻元税理士事務所
国税OB税理士による税務調査対策グループ

 

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