Q これから個人事業主として活動することになりました。税務署に提出する書類の中に「青色申告承認申請書」というものがありました。
青色申告をしたら得になるのでしょうか?白色申告と違いや、結局青白どちらにするのが得なのか教えてください。
A どちらが得かはケースによりますので、解説していきます。
独立開業するって勇気が要りますし、分からないことだらけで不安がいっぱいですよね。
特に税務のことは、これまで考えたこともないって方が多いので、苦労されると思います。
急に「青色申告」と聞いても、それをすべきなのか?、した方が得だとしても実際にできるのか?分かりませんよね。
そこで、そもそも青色申告制度って、どういうものなの?から話を始めたいと思います。
なぜ国は青色申告制度を作ったか?
青色申告制度ができたのは、終戦直後。戦前までの日本は、事業者は申告なんてしておらず、国が一方的に「おたくはこれくらいの商いだから、これくらいの税金ね。」と納税額を決めていたんですね。
戦後になって、GHQから「これからは事業者が自分で申告するような制度にしなさい。」と指導があり、賦課方式(国が税額を決める方式)から自主申告方式(納税者が自分で申告する方式)に変更。
でも、記帳や申告をしたことない日本人。
無申告や脱税が横行しました。
「けしからん!」と怒る税務署、「できるかい!」と争う納税者で、諍いが多発したことを受けて、国は「きちんと帳簿つけたら、税金安くしてあげる。その指導もしてあげる。」という青色申告制度を作ったわけです。
ここに至るまでのストーリーを大幅割愛しましたが、ともあれ現在、個人事業者で青色申告を選択している方の割合は約60%というところまで来ています。
なんで「青色」なのかというと、この制度を提案したシャウプ(日本史に出てくるシャウプ勧告を進めたアメリカ人)が、日本人に印象の良い色を聞いたところ、「青」が最も多かったからだとか。
「事業者にちゃんと帳簿をつけてもらうにはどうしたらいいか」から始まったこの制度は作ってから70年以上経った今も、使われているというわけです。
青色申告の条件とは?
では、この青色の特典を受ける条件とは何でしょう?
条件は次の二つ。
● 複式簿記による記帳を行う(会計帳簿を作る)こと。
● 帳簿や領収書・請求書などの証票類を5年以上残すこと。
複式簿記というのは、仕訳というものを入力していくことで帳簿を作成するやり方ですね。
簡単に言えば、一つの取引を1項目で表す家計簿のようなものが単式簿記で、一つの取引を2項目で表す、つまり、現金で商品を売ったら「現金/売上」という仕訳を切るやり方が複式簿記です。
左が単式簿記ですね。①は10万円の商品を売ったという処理ですが、単式簿記ではそれが現金で売ったのか、振り込んでもらったのかは分かりません。
複式簿記では、借方(左側)に普通預金があることから、売った代金が振り込まれたことまで分かるということです。
また、②から⑤の経費についても、同様に複式簿記では現金で払ったことが分かります。
単式簿記では電話代となっていますが、複式簿記では「通信費」という勘定科目を使うんですね。
電話代も郵便代もWi-Fi代もこの「通信費」にひとまとめにして表します。
今は簿記の知識があまりなくても作れる会計ソフトが出ていますから、それほど難しくはありません。
青色申告の特典とは?
国か言う「ちゃんと記帳をしたら、税金安くしてあげる。」ってどういうことなのか?
その特典をまとめると、次の5点
① 青色申告特別控除
② 青色事業専従者給与控除
③ 事業損失の3年間繰越控除
④ 少額減価償却資産の特例
⑤ 貸倒引当金の設定
青色申告特別控除
所得税額を算出するには、売上げから仕入れや経費を差し引いた「儲け」から各種の控除を差し引いたものに税率を乗じるという計算過程を経ます。
青色申告をせずに白色申告をした場合、「儲け」=「所得」ですが、 青色申告の場合は「儲け」から「青色申告特別控除」を差し引いたものが「所得」となります。
次のイメージ図を見ていただけるとイメージしやすいですよね。
差し引いてもらえるのですから、税金は減ります。
では、いくら差し引いてもらえるのか?
令和2年分の確定申告から変更されています。
10万円控除の簡易な記帳とは複式簿記でなくても良い。
つまり、家計簿のような形式でも構わないということです。
要は売上げや仕入れ、経費がいつ計上されているかが後から帳簿で分かれば良いということ。
55万円以上の控除を受けようと思えば、複式簿記をする必要があります。
複式簿記というのは、借方、貸方に勘定科目を入力していく簿記のやり方ですね。
(弥生会計の仕訳日記帳画面。借方・貸方の仕訳の基本さえ分かっていれば、簡単に入力できる。)
市販の会計ソフトに入力していけば、条件は満たすはずです。
損益計算書や貸借対照表も、入力さえしっかりしていけば、会計ソフトが自動的に作ってくれます。
ちなみに、発生主義というのは、例えば売上げを計上するときに、請求書を発行した段階で売上げを計上するやり方。
請求書を発行して数日後に振込入金されたときに売上げを計上するのが現金主義です。
青色申告をするには、すべて請求書を発行した、もらった、その日に計上する必要があります。
これらの条件は以前から変わっていません。この条件を満たして書面で確定申告をするということであれば、55万円の控除が受けられることになります。
さらに10万円上積みして65万円の控除を受けるには、次のフローにあるように、とにかくe-Taxで提出することです。電子帳簿保存はまだまだハードルが高いですからね。
ちなみに、税務署に行ってパソコンで申告しても、それはe-Taxとは言いませんよ。
大きなビジネスをしている方にとっては、儲けから最大65万円差引いてもらっても、どうってことないかもしれませんが、小規模事業者にとっては大きく税額が下がります。
青色事業専従者給与控除
青色申告者が「青色事業専従者給与に関する届出書」をに提出することにより、生計を一にする 配偶者(奥様あるいはご主人)と 親族(じいちゃん、ばあちゃん、息子・娘など。15歳未満を除く) の給与分を全額必要経費とすることができます。
白色だったら、次の計算式で求めた金額が上限になります。
例えば、
収入400万円・経費250万円・専従者(配偶者)の場合であれば、
(400万円ー250万円)÷(1+1)=75万円
配偶者の上限86万円を下回っていますから75万円が控除額です。
収入400万円・経費200万円・専従者(配偶者)の場合であれば、
(400万円ー200万円)÷(1+1)=100万円
配偶者の上限86万円を上回っていますから、86万円が控除額です。
要するに、白色なら上限があるので、儲けていれば経費になる部分が少なくなり、たくさん税金を払わなくてはならない。
青色だったら、上限を気にせず、全額経費です。
ただし、これは 「青色事業専従者給与に関する届出書」を
① 「青色事業専従者給与額を算入しようとする年の3月15日」までか、もしくは
② 「その年の1月16日以後に事業専従者を有することとなった場合には、その日から2か月以内」 までに
所轄の税務署に届け出る必要があります。
事業損失の3年間繰越控除
白色申告の場合は、その年に赤字になっても翌年に繰り越せません。
しかし、青色申告をしていれば、赤字を翌年に最大3年間繰り越すことができます。
ずっと黒字経営なら問題ありませんが、コロナ禍のような誰も予想できない逆風はあるものです。
青色申告をしていれば、赤字を出した翌年に黒字が出ても、税金を納めなくてよい場合もあります。
個人的にはこれが青色申告の最大のメリットではないかと思います。
少額減価償却資産の損金算入
白色申告の場合、パソコンや応接セットなどを一気に経費化できる上限は10万円未満。10万円以上のものは資産に計上して減価償却費として少しずつ経費化していくことになります。
青色申告の場合は、その上限が30万円未満。
これを少額減価償却資産の特例と言います。
30万円未満のものは一気に経費化できます。
この30万円とは、税込みか?税抜きか?
開業したばかりの方は消費税免税事業者ですから、迷いなく税込みで判断します。
消費税を支払う課税事業者になった時には、税抜き経理なら税抜きで、税込み経理なら税込みで判断します。
貸倒引当金を設定できる
白色申告の場合は、そもそも貸倒引当金の設定はできません。
青色申告の場合は、貸倒引当金が設定できる。
貸倒引当金って???
例えば、掛け売りしたお金が回収できないこともありますよね。
それを「貸し倒れ」って言うんですだけど、それを先回りして一部経費にしていいですよ
これを「貸倒引当金」と言います。
まだ貸し倒れていないのに経費化できるんです。素晴らしいでしょ?
ただ、これは初年度だけ節税効果があるものです。
翌年も経費化できますが、前年分を取り消して新たに設定するので、差し引きすれば節税効果はほとんどありません。
青色申告と白色申告の違い
ここまで、青色申告の特典を見てきましたが、これは複式簿記による記帳や帳簿の保存をちゃんとできたらという条件での話。
じゃあ、白色申告は記帳や保管をしなくて良いのでしょうか?
そんなことはないんです。
税法が平成26年に改正されて、白色申告でも簡易的なものでいいけど帳簿は作って、保管しておくことが義務化されました。
上2行の義務は全く同じになったわけですね。
ただ、義務といっても違反して帳簿を作っていなかったり、保管していなかったりしても、罰則があるわけではありません。
白色をやめない人々
これだけ青色申告に特典があって、義務もほぼ変わらないのに、なんで白色を選ぶ人がいるの?
そう思いませんか?
いまだに約40%の事業者が白色申告のままです。なぜでしょう?
彼らは罰則がないのをいいことに、敢えて白色申告のままにしているのです。
記帳や領収書の保管は義務だけど、まともに帳簿も作らず、領収書の保管もしない。
罰則がありませんから、意図的に白色申告にすることで脱税しているのです。
「そんなことして国税当局は黙っているのですか?」
いや、黙っているわけではありません。
利益をかなり出しているのに意図的に脱税している場合、税務署は「脱税しているな」という見当がつきますので、税務調査に乗り出します。
納税者が記帳していなかったり、記帳していても保管していなかったりした場合、税務署には「推計課税」という伝家の宝刀を抜くことができます。
伝家の宝刀・推計課税
「推計課税」とは、帳簿が無くて分からない場合や飲食業や風俗業などのような現金商売で売上げを抜いている場合などに使われる課税方法なんです。
帳簿や領収書といった帳票がなくても、残っている痕跡があります。
売上げに係る振込金額や仕入れの領収書、税務署が持っている調査資料など、分かっているデータから業種平均の利益率などを利用して、大まかな税額を推計して課税する。
これが「推計課税」です。
例えば製造業で、売上げは全て振込みで確定していて、仕入れや経費を水増ししている場合。
同規模の製造業の平均的な利益率を売上げに乗じて税額を確定させる。
あるいは、飲食業で、仕入れは分かっているけど、売上げを抜いている場合。
メイン商材の仕入れ価格から利益率を割り戻して(餃子屋さんなら、餃子の皮1枚で売上げ50円を生み出すだろうという具合に)売上げを推計して税額を確定させる。
青色申告の場合、国税当局はこの「推計課税」をすることはできません。
帳簿が揃っているはずですからね。青色申告をしているのに帳簿を保管していなかったり、何度も脱税したりしている場合は、青色申告を取り消され、白色申告に強制的にさせられます。
白色申告にした上で「推計課税」です。
国税当局に立ちはだかる徴税コスト
この「推計課税」をされると、納税者は太刀打ちできません。
反論しようにも、自ら帳票を捨てているわけですから。
しかし、この「推計課税」で課税するという手法は、かなり時間がかかります。
私が調査官時代、お好み焼き屋の税務調査を行った際、売上げを抜いていることが分かりましたので、この推計課税をした経験があります。
小麦粉150グラムから、あるいは卵1個から、お好み焼き1枚(800円)が作ることができる。
年間34,000枚のお好み焼きを焼いたと推計されるから、客単価1,500円×34,000枚=5,100万円の売上げがあったはず。
売上げ3,100万円で申告していますから、1年間で売上げ2,000万円、3年遡って6,000万円の売上げ除外という具合に推計で課税します。
納税者を納得させて修正申告をしていただきましたが、この事案をやりきるのに4か月を要しました。
これを全ての納税者にできるかというと、難しいでしょうね。
国税当局には「徴税コスト」という考え方があります。
調査官1人が相当の時間を割いてまで、やる事案かどうか。
調査に入って苦労して課税しても、それほどの金額にならないのであれば、スルーした方が良いだろう、と。
まとめ
いかがでしたか?
白色申告を脱税の隠れ蓑に使う人がいるってことをお分かりいただけましたか?
しかし、国はぼちぼち重い腰を上げ始めています。
例えば、マイナンバーカードの普及に伴い、金融資産などがガラス張りにされることになります。
また、2023年10月からは、消費税のインボイス制度が導入され、売上げ・仕入れに「適格請求書」を使わざるを得ない状況になります。
適格請求書とは、「売手が、買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段」に用いられるもので、この適格請求書の保存が消費税の仕入れ税額控除の条件になります。
つまり、買った時に払った消費税を認めてほしければ、この請求書を発行してもらって残しておかないと、損をすることになりますし、売る時も得意先に損させるわけにいきませんから、この請求書を発行することになり、その結果、商取引がガラス張りになるわけです。
記帳の義務、帳票類の保管の義務も青白変わらなくなった今、この青色申告といった制度も役割を終えることになるのではないかと思います。
それまでの間、青白どちらにするかの判断材料にこのQ&Aが参考になれば、幸いです。
なお、これから開業する方は、「開業届は絶対に出さないといけないのか?」をご一読ください。
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