Q 昨年、医療費の総額がかなりの金額になりました。これまで確定申告などしたことがないので、よく分かりません。申告に必要なものは何か、少しでも多くの還付を受けるためにはどうすればいいかなどについて、教えてください。
A 必要な書類や期限、節税方法、注意点などについてお伝えします。
確定申告の時期が近づくと、皆さんソワソワしてしまいますよね。
医療費がたくさんかかってしまった方は、還付してもらうためにレシートや領収書を集計しなければなりません。
まずは、医療費控除の計算式から押さえていきましょう。
よく勘違いしている方がいますが、この計算式で求めた額がそのまま返ってくるわけではありません。
この計算式で求めた額に税率を乗じた金額が返ってきます。
続いて、どのような書類が必要か。
医療費控除を受けるための確定申告に必要な書類は、次の通りです。
医療費控除に必要な書類
①医療費医療費控除の明細書またはセルフメディケーション税制の明細書
これが医療費控除の明細書
人ごと、病院ごとに入力していきます
そして、これがセルフメディケーション税制の明細書
医療費控除とお得な方を選択します。詳しくは後述します
②源泉徴収票
お勤めの会社から配付されます
③医療費の領収書やレシート(医療費のお知らせ)
平成29年分の確定申告から医療費の領収書を税務署に提出しなくてよくなりました。
その代わり、①の医療費控除の明細書を税務署に提出すること、そして領収書を5年間保存することが条件になっています
近年はマイナポータルを使って電子でデータを受け取り、確定申告をすることができます
これが最も簡単なので、ぜひ活用してください
マイナポータルの「確定申告の事前準備」より医療費通知情報を取得し、確定申告書作成コーナー等に連携できます。
なお、確定申告に利用するための1年間分の医療費通知情報(XMLデータ)は、例年、原則2月9日より申告年分の1月から12月分までの情報が一括で取得可能となります
確定申告の事前準備ページについては、下記のマニュアルをご確認ください。
●操作マニュアル 07 確定申告の事前準備
https://img.myna.go.jp/manual/03-04/0186.html
医療費控除の明細書に代えて、「医療費のお知らせ」(正式には「医療費通知書」)を提出しても構わないことになっています
令和6年度の「医療費のお知らせ」は、主に、令和5年10月診療分~令和6年9月診療分までのものを、令和7年1月中旬から2月上旬にあなたが勤める会社(任意継続被保険者の方は自宅)に送付されます
医療費のお知らせを確定申告の医療費控除に活用する場合、令和6年10月診療分~12月診療分については、医療機関等からの領収書に基づき作成した医療費控除の明細書を申告書に追加して添付する必要があります
さらに、「医療費のお知らせ」を申告書に添付した場合には、お知らせに記載されている医療費については、領収書を保存する必要もありません
ただ、「医療費のお知らせ」と領収書は微妙に金額が異なります。
上が領収書、下が「医療費のお知らせ」ですが、このように保険請求額(赤色)はほぼ一致していますが、医療品を購入した(青色)部分の金額はお知らせに反映されていません
今回の場合、医療費のお知らせで申告すると、医療費は3,753円ですが、領収書なら6,720円です
微妙に差が出る理由は
・治療(保険適用)のほかに、診断書(保険適用外)を書いてもらったり、医療品を購入したりして、代金を一緒に払った
・医療機関や健保組合などの処理のズレや間違い
・端数処理
・自治体による補助がある
などが挙げられます
きっちり医療費額を申告したい方は、領収書を残しておくか、マイナポータルからデータ取得した方が良さそうです
④交通費の領収書
交通費はどこまで認められるのか、少し整理をしておきましょう
電車やバスなどの公共交通機関は〇
病院への通院のために出した電車代などは対象になります。いちいち領収書を保存する必要はありません
エクセルやメモなどに日付、利用交通機関、通院した病院名を保存しておいてください
タクシーは原則×だけど…
タクシーについては、その方が楽だからといった理由では認められません
タクシーを使わざるを得ないほど重症といった場合、例えば、お産の陣痛で一刻を争う場合、高齢で足腰が不自由な場合など、きちんとした理由があれば認められます
しかし、医師の診断書が必要といった厳格なルールがあるわけではないので、自己判断に任されています
新幹線・飛行機も原則×
自己都合で遠距離通院する場合などは、対象になりません
ただ、かかりつけ医から遠距離の病院を紹介されてやむなく通院する場合などのきちんとした理由がある場合のみ認められます
遠距離通院した場合に宿泊した場合の宿泊費はどのような場合であっても認められないので、注意してください
ガソリン代、駐車料金、高速料金は✖
マイカーを利用した場合には交通費は認められないと覚えておいてください
「急を要するか?」「必ず治療などに必要か?」という原則さえ守っていれば、無茶なことをしない限り、税務署からガミガミ言われることはありません
原則を踏まえた上で常識的な判断をすれば大丈夫です
医療費控除の申告の期限
期限に関して、まず「いつから」か。医療費控除に限らず、確定申告は翌年の1月からできます。税務署は2月16日からといった期間を設けていますが、その前に提出しても問題ありません
「いつまでに」ですが、5年後の年末まで申告することができます
ちなみに、過去に医療費控除をし忘れていたという場合、5年前まで遡れます
次の表で確認してください
よく、「遅れたら加算税がかかるんじゃないのか?」と聞かれる人がいますが、それは納付金額が発生する場合で、還付されるのですから加算税はかかりません
申告するのが遅ければ、還付されるのも遅くなる、それだけのことです
対象になるものとならないもの
医療費控除の対象になるのか、ならないのか微妙なものはたくさんあります
マッサージ代などは治療目的なら対象になりますが、疲れを癒す目的なら対象になりません
レーシックやインプラント、セラミック歯といった高額な施術も医療費控除の対象になります
判断に迷う例を挙げておきましょう
かなり範囲が広いですよね
禁煙治療やED治療なんかも対象になりますし、歯の矯正の場合、大人は美容のためと見なされ対象外ですが、子供のうちなら噛み合わせを治療するのは医療行為という趣旨から対象になるんです
ご高齢の方などで補聴器を買おうとしている方は、先に医療機関に行って、診断を受けてからにしてくださいね
普通に購入すると、医療費控除に入れられません
- 難聴患者は、まず補聴器相談医を受診し、必要な問診・検査を受ける
- 補聴器相談医は「補聴器適合に関する診療情報提供書」に必要な事項を記入し、患者に手渡す
- 患者は補聴器販売店に行き、「補聴器適合に関する診療情報提供書」を提出し、試用の後、補聴器を購入する
- 患者は「補聴器適合に関する診療情報提供書」の写しと補聴器の領収書を受け取り、当該年度の確定申告における医療費控除対象として申請し、保存する。(税務署から求めがあった場合は、これを提出する)
この流れを必ず守ってください。補聴器は高額ですから、大きいですよ
セルフメディケーションと医療費控除を天秤にかけよ
「セルフメディケーション税制」は2017年にスタートした制度
一部の市販薬について、1年間の購入費のうち12,000円を超えた部分を所得から控除するという制度ですね
医療費控除とどう違うのか?
実は、医療費控除とセルフメディケーション税制、どちらか有利な方を選べっていうシステムなんです
(出典:コクミン様HP)
セルフメディケーション税制の上限は、購入費用10万円。12,000円を超えた部分が控除されますから、最大88,000円が控除されます
医療費控除とどちらを使う方が得か?
あくまで基準ですけれど、医療費総額188,000円を超えるようなら、医療費控除を選んでください
医療費総額が188,000円以下で、セルフメディケーション税制の薬が100,000円超の時はセルフメディケーション税制、100,000円以下の時は医療費控除を選んだ方が控除額が大きくなります
注意点は、セルフメディケーション税制の方が得だ!となっても、健保や国保が実施する人間ドックや健康診断、市町村が健康増進事業として行う健康診断やインフルエンザ予防接種など、健康増進のための取り組みを全く受けていないと、これを選ぶことができません
まぁ、税務署がこれを確認する術はありませんが、原則はそういうことになっています
セルフメディケーション税制の医薬品をどうやって見分けるのかと言うと、薬のパッケージに専用マークが記載されているほか、レシートの商品名の横に★マークが付いていますから、これを抽出して合計してみてください
(出典:コクミン様HP)
節税方法と注意点
ここまで基本的な取り扱いを説明してきました
ここからは節税方法と注意すべき点について、お伝えします
稼ぎ頭が医療費控除をせよ
医療費控除の計算式を冒頭でお伝えしましたが、あの金額がそのまま返ってくるわけではありません
求めた金額に税率を乗じた金額が返ってきます
日本の所得税率は知っての通り、「累進課税(るいしんかぜい)」といって、稼げば稼ぐほど高い税率で課税されます
ということは、税金を返してもらう時には、稼いだ人の方がたくさん税金が返ってきます
医療費控除は家族の稼ぎ頭がするようにしましょう
家族分まとめて控除せよ
これは当たり前のことを言ってると思われるでしょうが、結構知らない人が多いんです
扶養している家族でないとダメなんでしょ?とよく言われますが、扶養しているか否かは関係ありません
共働きの家庭では、お父さんはお母さんを扶養家族にしていませんが、ひとまとめにして医療費控除ができます
下宿している学生の息子さんの医療費も控除できます。同居が条件ではありません
「生計を一にしている」というのは税法独特の言葉ですが、要は財布の出どころが同じ家族はまとめられるということです
長期治療は先払いせよ
歯の治療などは結構長い期間かかることが多いですよね
例えば、長い期間をかけて歯の治療をし、昨年中に無事に治療を終えたとしましょう
治療代金70万円のうち、40万円については昨年中に支払っていますが、残りの30万円は今年になってから支払った
70万円を全額医療費控除に含めることはできると思いますか?
正解は去年に支払った40万円しか医療費控除の対象になりません
「えっ!?もう治療終わっているのに!」
お気持ちは分かります。でも法律上、未払いの医療費は含めませんと規定されている以上仕方ありません
逆に言えば、今年の医療費は多くかかりそうだと思ったら、長期の治療などは支払いを来年に持ち越さず、今年に支払ってしまうのです
昨年中に手持ち現金がなかったから、仕方なく年をまたいで支払わざるを得なかったという場合は、昨年末にクレジットカード払いにするのも手です
クレジットカード支払いの場合は、カードを切った時点が医療費控除の対象なのです
なぜなら、医療機関への支払い義務は、カードを提示した段階で終了しているからです
こうすれば、実際に銀行口座から引き落とされるのは2月であっても、昨年中の医療費控除に含めることができます
去年教えてくれよ~と思っているあなた、未来永劫使えるノウハウですからね
マッサージや針灸は…
先ほど、「マッサージ代などは治療目的なら対象になりますが、疲れを癒す目的なら対象になりません。」とお伝えしました
所得税法73条や基本通達73-3~7には「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の対価(ただし、疲れを癒したり、体調を整えるといった治療に直接関係のないものは含まれません。)」と明記されているんですね
ここに記載されているあん摩マッサージ指圧師やはり師って、すべて国家資格がいるものなんです
なので、巷に溢れる「コリぼぐし3,980円」みたいに国家資格を持っていない人にいくらマッサージしてもらってもダメってことを言いたいわけです
よく「保険適用じゃないものはダメですよね?」と聞かれますが、保険適用か否かは医療費控除と関係ありません
インプラントが控除の対象になっていることからも分かりますよね?
要するに、治療目的か疲れを癒す目的か、なんて本人の感じ方次第
私としてはマッサージはダメと言い切れば良いのにと思いますが、そこは法律の抜け穴みたいになっているわけです
「あん摩マッサージ指圧師」の国家資格を持つ店を選んでマッサージを受けた場合のみ医療費控除を受けられるというルールなので、マッサージで控除を受けたければ、こういう所を選んで施術を受ける。これがベスト
しかし、領収書を提出しなくていい現状で、いちいち税務署が「この3,980円は疲れを取るためですよね?」と確認するはずがありません
ただ、「医療費控除の内訳書」は税務署に提出しますから、「リラクゼーション〇〇」とか「ほぐし堂」とか明らかに国家資格を持ってないだろうという名だと、すぐバレてしまいますからね笑
補てんされる金額は正直に書け
最後に注意点
医療費控除の計算式は
この(2)保険金等で補てんされた金額っていうのは、以下のようなもの
- 生命保険や損害保険の医療保険金など
- 社会保険や共済の給付金
- 医療費のための損害賠償金
- その他の互助組織から受ける医療費のための給付金
税務署から必ず指摘され、修正申告をすることになります
ですので、正直に記入してくださいね
生命保険会社や年金機構と税務署は繋がっていると覚えておいてください
ちなみに、出産に30万円かかって、35万円の補助金を受け取った場合、多く受け取った5万円を他の医療費から差し引く必要はありませんからね
差し引くのは該当する医療費からだけで、他の医療費に影響を及ぼしません
以上のようなことを頭に入れておけば、しっかり医療費控除で税金を返してもらえるはずです
なお、「医療費を集計したら12万円だった。返ってくる税金は2,400円。もう面倒くさいから申告しなくていいや。」と思っているあなた
「医療費控除、少額でも確定申告しておけ!住民税や保育料が安くなる」を一読してみてください
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