損益通算で節税せよ

Q サラリーマンです。働き方改革で残業は減りましたが、給与も減り、副業しようかと考えています。副業で赤字が生じた場合、すでに納めた源泉所得税が還付されると聞きましたが、本当ですか? 

A 還付されます。

所得税法では所得の種類を10種類に分けて計算することになっています。
その10種類のうち「事業所得の黒字と不動産所得の赤字は合算できますよ」とか、「事業所得と土地建物の譲渡による赤字は合算してはいけません」など、決められています。
このように所得を合算することを「損益通算」と言います。

損益通算ができるのは、「事業所得」「不動産所得」「譲渡所得」「山林所得」が赤字の時のみです(「譲渡所得」については、総合課税のものだけ、損益通算できます。上記の土地建物の売却などは分離課税のため、対象外ですし、別荘など生活に必要でない資産の売却なども除かれます)。
これらの所得に関する赤字は損益通算を行うことができます。逆に言えば、「一時所得」や「雑所得」は赤字が出ても損益通算できないということですね。

副業が実質的に事業として成立しているか

お尋ねの場合、副業が事業所得(小売業など)であれば、給与所得と合算できますので、小売りで赤字が出たとなれば、あらかじめ納めた源泉所得税から税金が還付されます。
ただし、注意点があります。その副業が実質的に事業として成立しているか、です。
具体的には、ちゃんと売上げが反復継続しているか、販売体制などが客観的にも分かるかなど、「片手間にやっているから、雑所得じゃない?」と指摘されないようにすることです。

よく書店に「領収書はすべて残しておけ」とか「サラリーマンは税金を返してもらえ」などというエキセントリックな表題の本が並んでいますよね。
あれを信じて、そのまんま実行してしまう人がたまにいます。

例えば、サラリーマン、特に年収1000万円を超えるような高給取りの方は、結構所得税を支払っているため、腹が立つんでしょうね(笑)。
ある上場企業の専務(年収4700万円)がマンションの1室を購入して、人に貸したんですね。月額25万円、年300万円の不動産収入です。
でも、この方の税率が40%を超えてしまっているので、普通に申告すると、不動産の賃料で300万円入ってきて経費の固定資産税など80万円を差し引いた220万円のうち100万円も税金で持っていかれてしまう。
そこで、この専務は経費で飲み代やら夕食代やら車代、子供の塾代などありとあらゆるものを経費にして、不動産収入300万円に対して経費800万円で確定申告します。
給与収入と不動産収入は損益通算できますので、不動産所得のマイナス分500万円に対する所得税が還付になります。高給取りの専務が手にした還付税額は216万円!
でもね、税務署もバカじゃないんです。ちゃんと見てます。
給与所得があって、不動産や事業所得もあって、損失が3年連続して100万円以上といった抽出がちゃんとできるんです。
アパートを1棟貸して空室がすごく多いといった理由があれば分かりますけど、1室だけ貸して赤字が3年も続くなんてあり得ないでしょう。
同じ理由で、サラリーマンが副業(ネットで小売)をした収入100万円だけど経費が500万円かかって、毎年400万円の赤字って、「それなら副業辞めたらええがな!」と思いますよね、普通。
結局この専務、税務署に調査に入られて、3年さかのぼられて、加算税や延滞税、市民税まで入れると1000万円以上追徴がきました。

聞きかじりの損益通算節税策はするな

ありがちな例なんですけど、聞きかじりの節税策などやらない方が身のためです。
おさらいすると、損益通算できる所得はこの4つ。
損益通算できる所得一覧

※1 不動産所得赤字のうち、土地等取得時の借入金利子は「損益通算」不可
※2 土地建物・株式は分離課税のため対象外(「居住用不動産」のみ例外)
※3 別荘、書画、骨とう品など「生活に通常必要でない資産」の譲渡により生じた損失は「損益通算」不可。
なお、生活用動産の譲渡などは、そもそも「非課税」のため、「損益通算」対象外。

次に、損益通算をするに当たっては、順序があります。
損益通算の順序

所得を「経常グループ」「臨時グループ」の2つにグループ分けしたのち、「第1次通算」「第2次通算」「第3次通算」の順序で損益通算を行います。
と言ってもなかなか分かりにくいですよね。ちょっと例題をあげてみましょう。
大阪市にお住まいの辻元さんの昨年の所得状況がこちら
損益通算 例題
辻元さん、不動産でも株でもめちゃ損してます。これはツラい。
損益通算して税金を安くしてあげましょう。

①各所得金額の計算

給与所得 600 万円-180 万円=420 万円
不動産所得 500 万円-700 万円=▲200 万円
(注)ただし、土地の取得に係る借入金利子が 100 万円含まれているため、他の所得と
損益通算できる金額は▲100 万円となる。理由は以下のとおり。
所得税法69、所令178⇒不動産所得の金額の損失のうち土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額は損益通算の対象にならない

一時所得(生命保険契約の解約返戻金にかかる所得) 300 万円-370 万円=▲70 万円
(注)ただし、一時所得の赤字はなかったものとされるため、ゼロとなる。理由は以下のとおり。
所得税法69、所令178⇒配当所得、給与所得、一時所得及び雑所得の金額の計算上損失が生じることはありますが、その損失の金額は他の各種所得の金額から控除することはできません。

退職所得 (1,000 万円-40 万円×18 年)×1/2=140 万円
所得税法30、31、120~122、199、201~203、所令72⇒退職所得の計算方法

上場株式等の譲渡所得 ▲100 万円
(注)この赤字は確定申告をすることにより翌年以後に繰り越し、株式等の譲渡所得と
相殺することはできるが、譲渡損が生じた年の他の所得との損益通算はできない。

②損益通算の計算

まず1次通算(メイン所得の経常グループ)
経常所得(給与、不動産)の損益通算 420 万円+▲100 万円=320 万円
2次通算(経常グループと臨時グループ)

総所得金額 一時所得がゼロのため、経常所得と同じ額 320 万円

③課税所得金額の計算

退職所得は分離課税なので、別々に計算します。まずは課税総所得金額から所得控除額を差し引きます。
課税総所得金額 320 万円-150 万円=170 万円
次に退職所得は①で求めたとおり

課税退職所得金額 140 万円

④所得税額の計算

課税総所得金額にかかる所得税 170 万円×5%=8.5 万円
これは所得税の税率を掛けるだけですよね

所得税法89、通法118⇒所得税の税率
課税退職所得金額にかかる所得税 140 万円×5%=7万円
退職金の税率も先ほどと同じ

⑤所得税額の計算

8.5 万円+7万円=15.5 万円
正確には、復興特別所得税が所得税額の2.1%上乗せされますから、
15.5万円×102.1%=15.82万円となります。

例題のため、少しややこしいものを例にあげましたが、実際には株を売って、SBI証券で損したけれど、楽天証券では得をした、なんていう例が最も簡単な例ですね。
同じ臨時グループの譲渡所得(株の売却)で、片方が得、片方が損であれば、確定申告をすることで損益通算し、納めすぎている源泉所得税を返してもらうというのも損益通算の一つ。

「富士山頂」で損したら、確定申告

とにかく、損益通算できる所得は4つ。「富士山頂」(不動産・事業・山林・譲渡)で損をしたら、確定申告をして取り返せる、と覚えておきましょう。
税理士に依頼すれば、例題のようなややこしい例でも計算してもらえます。
国税OB税理士による税務調査対策グループ

問い合わせ 入口基本ver 辻元税理士事務所

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