Q 妻がパートで働いています。「〇万円の壁」が変更されたと聞きましたが、結局妻の年収はいくらまでにするのが得になるのでしょう
A 税法と社会保険の取り扱いの違いを理解して、見極めましょう
2024年の年末から国民民主党の躍進によって大きくクローズアップされた「103万円の壁」撤廃ムーブメント
ついに2025年3月、税制関連法案が衆議院を通過しました
では、何が変わったか
そもそも「103万円の壁」とは
そもそも「年収103万円の壁」の見直しは、税負担を理由にした働き控えを解消し、幅広い世代の手取りを増やすべきだという声から始まりました
所得税では、収入や所得から一定額を差し引く「控除」の仕組みがあります
まず、基礎控除
最低限の生活費用には課税しないという考え方から、控除されます
これまでは48万円でした
次に給与所得控除
サラリーマンやパートの方がスーツや靴などを購入する費用を「経費扱い」としてあらかじめ差し引くもの
控除額は年収が多いほど増え、年収が低い層に適用される「最低保障額」はこれまで55万円でした
この控除額を今回の改正で増やしたわけです

奥様の所得税がかかり始めるパート収入は103万円から160万円に引き上げられました
課税される最低ラインの年収(=課税最低限)は、58万円(基礎控除)と37万円(特例部分)と65万円(給与所得控除)をあわせた160万円になったわけです
令和7年からは年間160万円まで給料をもらっても所得税はゼロです
年間160万円ということは月13万円ちょっとまでは源泉所得税が引かれないと思いきや、この法律の施行が令和7年12月ということで、11月までは源泉所得税が引かれます
でも、ご安心ください
年末調整の段階で年間給与が160万円までに抑えられていれば、差し引かれた分は還付されますから
では、奥様ご自身の税金の話から、夫の配偶者控除の話にテーマを進めます
奥様はこれまで以上に働いても控除が受けられるように
夫は奥様のパート収入によって、配偶者控除(または配偶者特別控除)が受けられます
これも壁ではなく、スロープのように奥様の収入が多くなれば段階的に夫の控除が下がっていく仕組みになっています
スロープを図にしてみましょう
まずは令和6年までの配偶者控除のイメージ

横軸が奥様のパート収入額、縦軸が夫が受けられる控除額
奥様のパート収入が103万円を超えても、夫は控除を満額の38万円を受けられていますね
「配偶者控除」が「配偶者特別控除」って名前に変わっただけです
150万円から201万円までで少しずつ夫が受けられる配偶者特別控除の金額が下がってきます
では、令和7年はというと

図の雰囲気は同じですね
スロープのイメージは同じ
変わったのは、夫が配偶者特別控除を満額もらえる奥様のパート収入金額が150万円から160万円になったというところ
配偶者特別控除が受けられる上限の201万円は変更ありません
つまり、奥様ご自身の所得税も夫の配偶者控除も奥様のパート収入160万円まではかかりません
これを超えるとジワジワ控除額が下がるということですね
所得税に関してはそもそも壁なんてなく、スロープの始まりが先に延びたというイメージをつかんでいただけましたか
次に、社会保険の話に移ります
社会保険には壁がある
税法上の扶養とは考え方が違うので、以下の図をご参照ください
まずは、令和6年までの取扱い

続いて、令和7年の取扱い

(注意点)税法上の扶養に交通費や通勤手当を含める必要はありませんが、社会保険上の扶養には、交通費やその他の手当(住宅手当など)も年収に含まれますので、注意してください
106万円と130万円の壁の違いが分かりにくいかもしれませんが、要は従業員数51人以上の大きな会社にお勤めのパートさんは106万円の壁、それより小さな会社にお勤めのパートさんは130万円の壁とざっくり覚えておけば大丈夫です
(2024年10月から従業員数51人以上100人以下の会社にお勤めのパートさんは130万円ではなく、106万円の壁が適用されることになります)
例えば、妻のパート収入が106万円以上になると(夫の年収が1,095万円以内の場合)、税法上の配偶者特別控除(パート収入160万円までなら)は満額38万円受けることができますが、夫の社会保険上の扶養は外れてしまうので、「働き損」が出てしまいます
ざっくりですが、約25万円くらいの健康保険料と年金を支払わなくてはならない
そう、税金には壁がなく(スロープ)、社会保険は依然として壁があるということなんですね
しかし、この社会保険の壁については、取扱いが柔軟になっていますので、後ほどしっかり説明しますね
その前に、この社会保険の壁には2点、注意事項があります
夫の年収の半分以下
仮に妻が年収106万円未満で働いていたとしても、夫の年収が妻の2倍以上でなければ、夫の扶養から外れることになるんです
所得税にそのようなルールはありませんが、社会保険は「養うってことは稼ぎ頭なんでしょ?稼ぎ頭ってことは妻の倍以上年収はもらってるんでしょうね?」っていうルールなんですね
夫の年収195万円、妻の年収100万円って家庭なら、妻は「あんた!死ぬ気であと10万円稼いでおいで!」と、ドヤされることになるんでしょうか
106万円や130万円の壁は自営業の妻は無関係
夫が自営業の方は、保険は「国民健康保険」に加入し、年金は「国民年金の第1号被保険者」に該当します
「国民健康保険」は、世帯の収入や人数によって保険料が決まるシステムですから、扶養という概念がありません
また、「第1号被保険者」の妻はそもそも年収があろうがなかろうが、保険料を払っているんです
つまり、妻の年収は全く関係がないんですね
106万円や130万円の壁を気にしなくてはいけないのは、会社員や公務員の妻だと覚えておいてください
130万円の壁がゆるくなる(2023年10月~)
税金の基準は1~12月で判断します
しかし社会保険の場合、あくまでもこれからの見込みで年130万円未満という基準なんです
税金のように、1~12月で判断するのではなく、年のどの段階でも130万円を超えそうだよね、という段階で夫の扶養から外れます
その「超えそうだよね」の判断が、保険組合によって異なるのが分かりにくい原因です
年130万円基準は年のどの段階でも、その時点から見て12か月遡った合計年収が130万円を超えたら、扶養から外れます(原則論ですけどね。現実は年末判断している会社も多いです)
月108,334円基準は、単純に年130万円を12か月で割っただけですけど、多くの場合は月108,334円超えが3ヶ月続いたら、年130万円超える可能性が高いから、扶養から外しますってところが多いですね(外れた後、扶養に復帰しようとすれば、3ヶ月連続で月108,334円以内に抑える)
さて、先ほどお伝えした「130万円の壁」、おさらいすると「従業員50人以下の企業のパートさんは年収が130万円を超えると社会保険料を自ら払う必要がある」ということでした
しかし壁を気にして働く時間を調整するパートさんが多く、人手不足が深刻になってきたことから、2023年10月以降、年収130万円を超えても連続2年までなら扶養にとどまれるようになりました

(厚生労働省HP 「130万円の壁」)
厚労省の言う「雇用主が一時的な収入増だと証明し、健康保険組合などが個別に判断する仕組みをとり入れる。」とは具体的には以下のような場合
• 職場の繁忙期で、残業や出勤回数が増えた
• ほかの従業員の退職や休職によって、業務量が一時的に増加した
• 業務が繁忙期や受注量の増加で、企業全体の業務量が増加した
• 突発的な業務の発生で、業務量が増加した など
時給が上がった、手当が増えたなど恒常的に給与が上がる見込みの場合は認められませんが、上記のような場合には連続2年までなら「130万円の壁は外れる」ことになります
上記の項目に該当する場合は、会社に「一時的な収入増だ健康保険組合に証明して、引き続き被扶養者と認定してもらえるようにしてください」と申し出てみましょう
また、大企業で働くパートさんに立ちはだかる「106万円の壁」についても、厚労省は「壁を越えても手取りが減らないように賃上げをしたり、勤務時間を延ばしたりした企業に1人あたり最大で50万円を助成する方針」(年収の壁・支援強化パッケージ)とのことなので、壁を超えて社会保険料を払ったとしても、その分お勤めの企業から賃上げしてもらえる可能性が出てきました
106万円と130万円の壁については、こうした救済措置が出てきたことは朗報ですね
106万円の壁、撤廃?
106万円の壁が「令和8年10月に撤廃」という案を厚生労働省は出しているようですね
「撤廃」と聞くと「ラッキー!なくなるんだ」と考えてしまいますが、これは「週20時間以上働くならパート収入がいくらだろうが、社会保険には入ってもらいますね」という案
「壁がなくなる」の意味が違うだろ笑
ほぼ全員社会保険に入れということになると、パートさんにとって厳しいのは言うまでもありませんが、半分負担する会社側にとっても重い負担となりそうですよね
余談ですが、旦那さんの勤務先から旦那さんが配偶者手当などをもらっている方はそのあたりも確認すべきでしょう
奥様の年収が123万円未満の場合月1万円などがよくあるパターンですから、これらも確認しておきましょう
ご主人の扶養に「入る・入らない」で、所得税、市民税、国民健康保険料、国民年金保険料、配偶者手当などが大きく変わってきます

所得オーバーしていることがバレた場合
うかつにご主人の扶養に入ったまま、奥様の年収(所得)が扶養に入れるラインを超えてしまうと、「扶養是正」の通知が市役所からご主人の職場に届くことになります
すぐに届くのではなく、翌年夏以降に届きます
すると、去年1年間の上記の税金(配偶者控除)、手当(配偶者手当)などを全て返せと言われるだけでなく、奥様の国民健康保険料の負担を求められ、さらに奥様が使った医療費の保険負担を求められます(本来使えなかったご主人の保険を使ったため)
これは痛いです
一気に数十万円の負担を負うことになります
税金・健康保険・扶養手当の3つを見極める
こうしたことを理解すれば、奥様のパート収入を〇万円までに収めれば、どの負担が抑えられるかが明確になります
【追記】
衆議院議員選挙で「手取りを増やす」ことを公約とした国民民主党が躍進しましたね
今回の国民民主党が掲げる「103万円」は壁の撤廃ではなく、減税策
基礎控除を103万円から75万円拡大し非課税ラインを178万円に引き上げるというもの
そうすると、このブログで取り上げたパートさんだけではなく、すべての給与所得者が減税になります
給与収入300万円で8.6万円、500万円で13.2万円、1,000万円なら22.8万円の減税
そりゃ筆者も嬉しいですけど、何かを減らせば何かを増やすというのが財務省
何かで増税になる可能性もありますので、素直には喜べません
国民民主党には税金面だけではなく、社会保険面でも切り込んでもらって、壁を気にせずに働ける社会を実現してほしいものです
ちなみに党首・玉木氏は筆者が大阪国税局総務課勤務時代(平成13年頃)に一緒に仕事をさせていただきました
是非頑張ってほしいものです
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