Q 現在、個人クリニックを経営していますが、医療法人化を検討しています。税金面などでどんな違いがあるのか、注意点などを教えてください。
A 医療法人化の注意点、税金面での違いを押さえてきましょう。
クリニックを個人事業主として開業した後、規模が大きくなってくると、医療法人にした方がいいのでは、と検討を始めることになります。
そうですね、税金という観点からだけ言えば、個人事業としての事業所得(収入-経費)が1,800万円を超えるあたりから、売上げベースで言えば、7,000万円から8,000万円を超えるあたりから医療法人化を考える目安になるでしょうか。
法人化するメリットは、何も税金面だけではありません。さまざまな角度からそのメリット・デメリットをまず検証してみましょう。
医療法人化のメリット・デメリット
医療法人化のメリット
① 信用度の向上
簡単に言えば、「〇〇クリニック」よりも「医療法人〇〇会」の方が聞こえが良いということ。聞こえが良くなると、金融機関がたくさん貸してくれて、募集に応じる看護師や事務さんが増える。「〇〇クリニック」なんていう個人事業では、どうしても家計と事業がごっちゃになってしまいます。残ったお金がドクターの取り分ですからね。その点、医療法人では役員報酬が〇万円と決めますから、家計とはきっちり分離されます。
② 分院が開設できる
個人事業主のままでは、分院は開設できません。
③ 資金繰りが良くなる
社会保険診療報酬基金から支払われる診療報酬は、個人事業主であると、そこから源泉徴収されてしまいます(所得税法204条①三)。これが医療法人の場合は徴収されない。当然資金繰りはその分良くなります。
④ 事業承継しやすい
個人事業主の場合は、院長の資産・負債を事業、事業でないに関わらず、一つ一つ承継(相続)する手続きになり、整理が大変です。これに対し、医療法人の場合は、事業の部分については理事長を変更し、基金を承継することですべて終わることができます。
⑤ 法人契約の保険や退職金の活用
個人事業主の場合、退職金なんていう概念はありません。生命保険も所得税の洗礼を受けた後のお金から支払う必要があります。これに対し、医療法人の場合、退職金を支払うことにより、経費になり、節税ができます。その原資として生命保険を活用することができ、これも一部は損金(経費)にすることができます。
医療法人化のデメリット
① 医療法人のお金は自由に使えない
これはメリット①の裏返しですね。事業と家計をきっちり分ける、ということは、これまでのように子供の塾代をクリニックで溜まったお金から出しておこう、なんていうことはできなくなります。それは定額の役員報酬から支払うことになり、医療法人のお金は自由に使えません。
② 運営・税務手続きが増える
決算・申告以外に会計年度終了後2ヶ月以内に毎会計年度末日現在の資産の総額を登記する必要があったり、3ヶ月以内に都道府県知事に事業報告書を提出する必要があったり、個人事業主時代にはなかった事務が増えます。
ただ、フィーさえ支払えば、税理士がすべて代行してくれるのが普通です。
医療法人設立時の税金は?
医療法人を設立するとなると、医療法人にお金や医療用器械備品を入れる院長にはどんな税金がかかるのか、医療法人側はどうか、ここでは医療法人の99%以上を占める基金拠出型医療法人(いわゆる「社団法人〇〇会」の場合)に絞ってお伝えします。
まず、資産の提供をする側。おそらく院長など。
医療法人に差し出すのがお金(現金)であれば、課税は生じません。
一方、不動産などの現物資産を差し出す場合。
この不動産の評価額は、帳簿価格ではなく、不動産鑑定評価書又は固定資産評価証明書の額になります。評価額が帳簿価格よりも高い場合は、譲渡所得が生じることになるため、差し出した人に所得税・個人住民税が課税されます。
ただし、不動産を基金として差し出すと、後々面倒(基本財産にした場合には不動産を売るときに定款の変更が必要)なので、やめておきましょう。
不動産をお持ちの場合は、拠出ではなく、相場で賃貸するか帳簿価格で売却することをお勧めします。
不動産に担保権が設定されている不動産はそもそも基金に差し出すことはできません。
その他、医業未収金や医療用器械備品、医薬品などについては、帳簿価格で差し出す以上は、課税されません。
なお、これら現物拠出の価額の総額が500万円を超える場合は、弁護士や税理士などによる現物拠出財産の価額が相当である証明が必要です。
次に、資産を受け入れる側の医療法人
医療法人側は、差し出された資産の種類にかかわらず、益金に算入しない、つまり課税されません。
医療法人設立後の税金は?
医療法人の税金は、普通法人と少し異なります。
異なる点は、ざっくりこの表で確認してみてください。
基本的には法人税も消費税の扱いも税率は同じ。地方税もほぼ同じだけれども、事業税だけ少し優遇されている。
注意が必要なのは、法人税の中の話で、交際費や寄附金の取扱い。
まずは交際費。
普通の中小企業は年間800万円までの交際費は経費で落とせます。
この「中小企業」がこのメリットを使えるのは、「中小企業」が資本金が1億円以下だから。それ以上の資本金の大企業ならこのメリットが使えない。
で、医療法人(社団法人〇〇会)の場合は、この資本金という概念がない。なので、法人税法では「出資の金額に準ずる額」というものが定められているのです。
出資の金額に準ずる金額とは
(期末総資産帳簿価格-期末総負債帳簿価格-当期利益)×60%
これが1億円を超えると、大企業扱いとなり、交際費が経費で落とせなくなります。
「期末総資産帳簿価格-期末総負債帳簿価格-当期利益」つまり期末における純資産が166,666,666円を超えたら、負担が増えるので、毎期数千万円の利益を出しているのに、役員報酬などを抑えている医療法人は注意が必要です。
医療法人に利益を蓄積しすぎるな
最後に寄附金
これは、この表のとおり。
普通法人よりも損金に算入して良い金額が大きく設定されていることがわかりますよね。
寄付金に関しては優遇されていますが、それゆえに税務調査の時には「事業遂行上、必要なのか」厳しくチェックされます。
大学への寄付金が、ご子息の「入学時に際しての寄付金のお願い」といったものであれば、名前は寄附金でも入学金と見なされ、否認されます。
一般法人より少し優遇されているが故に、押さえるべき点は押さえた上で節税しましょう。
なお、医療法人化するにあたり、注意すべき点
医師国保については、「クリニック開業時から医師国保に加入を頭に入れておけ」
クリニック新設の場合については、「クリニックの内覧会の祝い金は、抜くな」をご覧ください。
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