相続税の税務調査を乗り切るノウハウ~税務署は見ています

金庫の中の現金

Q 2年前に父が他界したのですが、今回相続税の税務調査が入ると連絡がありました。何を聞かれるのか、どう答えればいいのか不安です。いいアドバイスがあれば、お願いします。

A 相続税の税務調査のシミュレーションをしてみましょう。

 国としては、法人税を減税し、所得税もコロナ騒動後、税収は期待できない。
そのような状況で国の財源としては「金持ちから巻き上げろ!」という傾向がますます強くなるのは間違いありません。
金持ちから巻き上げる最有力候補の税と言えば相続税&贈与税

 とは言え、相続税は2015年に相続税の基礎控除が引き下げられたばかり(3,000万円+600万円×法定相続人の数。改正前は5,000万円+1,000万円×法定相続人の数)。
これにより、相続税の課税対象になる人は約4%から約8%に倍増しました。
相続税の税率は、累進課税と言って、たくさん持っている人からはたくさんとるというもの。

相続税の税率(最新版)
お金持ちは大変ですよ。税率55%って半分以上もっていかれるんですよ。

しかし、今後はさらに相続税の負担が重くなる、つまり、基礎控除がさらに下げられ、現在約8%の人しか関係のない相続税が20%くらいになり、さらに、税率の低いところが引き上げられる可能性が高い。 5人に1人は相続税を払わなければならない世の中が近い将来、必ず来ます。

相続税調査に入られたら、ほぼ追徴

 平成30年度のデータでは、税務調査に入られた件数は12,463件。申告書を提出した件数が100件あったら12件は調査に入られています。
これは結構な確率ですよ。
そして、そのうち何か問題が見つかった割合は85.7%!
てことは、調査に入られたらほぼすべてで問題があったってことですよ。
所得税や法人税では母体が大きいということもありますが、調査に入られる確率は相当低い。
法人税の場合で言えば、日本の会社の総数は約280万件。そのうち調査に入られた件数は10万件弱。
会社が100件あったら3件か4件しか入られていない。
そのうち何か問題が見つかった割合は74.7%。
このことからも、相続税はかなりの確率で調査に入られ、調査に入られたらほぼ税金の追徴を受けているということがお分かりいただけますよね。

実は、税務署の相続税担当の職員はそれほど多くありません。税務署によって異なりますが、中規模の税務署なら、法人税の職員が40名、所得税の職員が30名、相続税の職員は6名とか、そんな割合です。
 調査を効率的に行うことはもちろんですが、近ごろは簡易な接触といって、文書や電話で納税者を呼び出し、調査まではいかないけれど、こんな質問をされます。
「〇〇銀行✖✖支店の口座にある3,000万円はお父様の口座ですよね?申告が必要ではありませんか?」と。
何日もかけて深度ある調査をするわけではないけど、税務署が持っている情報からしても、これは申告漏れではないのか?という目星をつけたところに連絡していくのです。
 これも含めると、申告書を提出した件数が100件あったら22件が税務署から「提出した申告書のことで聞かせてくれる?」と肩を叩かれたことになります

 相続税に入られて、支払う税金は加算税も含めて平均600万円弱。
何も問題が無かったところも含めての平均ですから、調査官をしていた私の体感ではもっと高額に思います。
ちなみに、税務署から「相続税をわざと誤魔化して申告しましたよね?」と重加算税を追徴されたのは問題のあった件数の6件に1件ほど。
相続税については、脱税の意図を証明するのが難しいんです。
お父さんが、奥さんや息子さんのことを考えて相続対策をする中で、この現金は申告しないでおこうと画策したとしたら、その当の本人は亡くなっちゃってますからね。
「死人に口なし」で脱税したことを税務署が証明することが難しい。
その意味で言えば、誤魔化そうとした割合は本当はもっと多いでしょうね。

漏れいていた申告は、何で残していたのか?となると、トップが現金・預金。
土地や建物の3倍近くを占めています。
上位を占めている項目は、それだけ税務署が把握していることの裏返しでもありますね。
タンス預金も多額すぎると、バレてしまうと考えておいた方がいいでしょう。

相続税 申告漏れ相続財産の推移

「相続税の申告等についてのご案内」を無視するな

税務署から「相続税の調査に伺います。」と電話が入るのは、相続がおきてから(お父さんが亡くなってから)2年ほど経った頃。
ちょうど3回忌(命日から満2年)の後くらいですね。
大型事案の場合は、少しこれより後の7月~10月くらいになります。
なぜ7月~10月かと言うと、「税務職員の異動時期が7月で、人事評価の対象になるのが7月~12月」という税務署内の完全なる内部事情で、気合を入れる事案はこの時期にするってことになっているわけですね。
「お父さんが亡くなってから10か月までに相続税の申告をしなければならない。」ってことは多くの人が知っていますが、中には知らない人もいます。
「忘れちゃダメですよ。」という意味も込めて税務署は「相続税の申告等にについてのご案内」という文書を申告期限までに、相続人に発送します。
いわゆる初回の「お尋ね」です。
相続税の申告等についてのご案内
時系列にすると、このようなイメージですね。

相続税に係るイベント時系列

この「お尋ね」を「あぁ、税務署は親切なんだなぁ。ちゃんと忘れないように注意喚起してくれているんだ。」なんて呑気に構えていてはいけません。
これは、税務署の偵察も兼ねているのです。
じゃあ、のべつ幕無しに誰かが死んだら「お尋ね」を送るのかと言えば、そんなことはありません。
ちゃんと、税務署が持っている資料から「きっと故人は財産を持っていたはずだから、相続税の申告が必要な可能性が高い。『お尋ね』を送って、申告が必要である可能性が高いことを注意喚起するとともに、相続人の状況や預貯金の状況を申告前に把握しておこう。」と判断した先だけ。
つまり、「お尋ね」が届いた段階で、ある程度、税務署から目を付けられているというわけです。
「お尋ね」と言われる封筒の中には
相続税のあらまし
相続税の申告要否検討表
が入っています。
相続税の申告要否検討表(記載例)
「相続税の申告要否検討表を作成していただき、税務署に提出してください。」
サラっと書いてますけど、これを提出しなかったら、どうなるんでしょう?
実は、これは「行政指導」というものなので、提出する義務はありませんし、提出しなかったからと言って、特に罰則があるわけではありません。
ただし、先ほど申し上げた通り、これが届いたということはすでに税務署から目を付けられている。
これを提出せず、相続税の申告書も提出しなかった場合、2回目の「お尋ね」が文書あるいは電話であるか、相当の資産家の場合は「悪質」と判断され、すぐに税務調査の選定に上がってしまいます。
必ず提出しましょう。
そして、いい加減なことを書くのもやめましょう。
いい加減なことを書いてはいけない理由は、次の項目。

税務署はなぜ知っているのか?

 先ほど、「お尋ね」を送っているのは、税務署が持っている資料から判断している、と申し上げました。
税務署は一体どんな資料をどういう経緯で手に入れたのでしょう?

 まずは、通常ルート
官公庁や金融機関などから簡単に情報は手に入ります。順番に見ていきましょう。

なぜ死んだと分かったのか?

死んだという情報は市町村から税務署に送られます(戸籍法)。

不動産をどこに所有しているのか、どうして分かるのか?

市町村の固定資産税課への照会で、故人がどこにどんな不動産を所有しているかが分かります。

預金や株をどこに持っているか、なんてどうやって分かるのか?

預金の利息や株式の売買益に源泉所得税がかかりますから、金融機関から税務署に、預金・有価証券の情報がいきます。つまり、どこの銀行、証券会社に預金や株式があるか、税務署は分かります。

資産家かどうか目星をどうやってつけるのか?

各種所得金額の合計額が2,000万円を超え、かつ、3億円以上の財産をもっている人は、確定申告時に財産債務調書の税務署への提出を義務づけられています。

資産家は代々資産家だろうけど、何十年も前の相続なんて税務署で分かるのか?

☞故人が以前に相続を受けた場合、その相続税の申告記録が何十年前でも税務署に残っています。

生きているうちに不動産を売ったことも税務署にバレているのか?

故人が不動産等を売って、譲渡所得の申告をしている場合は、税務署にその記録が残っています。

これらは、特に労せずして、税務署に来た情報を持っているだけ。それだけで、これだけの情報が税務署にはあるわけです。
資料はこれだけではありません。
もっと怖いのが資料化ルート

土地、預金、高級外車、骨董…あらゆるものを資料化している

税務署が、税務調査やネット情報、マスコミ情報などによって得た資料があります。
税務署では「119資料」とコードネームで呼んでいますが、保存期間も10年なんて決まっておらず、ほぼ永久的にデータ化されて保存されている資料です。
例えば、国税局や税務署の調査部隊が町の骨董品屋や刀剣ショップ、あるいは金の現物ショップ、ブランド品買取屋などに税務調査に入ります。
その調査部隊と一緒に資料情報担当(将来役に立つであろう資料を収集することだけを目的に動くチーム)が同行し、資料を集めるんですね。
令和2年11月18日に〇〇さんが、骨董品屋で伊藤若冲の書画を3,000万円現金で購入した。
骨董屋は、税法上はもちろんのこと、古物営業法でも「どこの誰にいつ売ったか」「その人の住所、氏名、職業、年齢」まで帳簿に残すことになっています。
国税局や税務署で、これらの情報を資料情報カードに入力していき、個人データに紐付けしていきます。こんな資料が税務署には、ちゃんと保管されています。
そうすると、あなたのお父さんが骨董屋で買った書画が、相続税の申告に載っていないと、申告漏れが疑われることになるんですね。

税務署が凄いのは、調査力というより、この資料力であると私は思っています。これを侮ってはいけません。
これらの資料と返送された「お尋ね」を見比べて、記載されているはずの預金口座や株、金の現物などがない。
ロックオンです。

税務調査のシミュレーションをしておく

 さて、実際に税務調査の連絡が来た!となった場合は、その時に備えて、シミュレーションをしておきましょう。

 相続税の調査では世間話や故人の趣味の話から始まり、徐々に核心をつく質問に入っていきます。
聞かれるポイントのベストテンを発表します!

相続税の税務調査で確認される事項ベストテン
どうでしょう。
そこまでチェックするのか!と思われたのではないでしょうか。
こういうことを聞かれるぞと、あらかじめ知っているのと、知らないのでは大きく結果は違ってきます。
特に相続税の調査の場合、調査を受けるのが初めてという方が多いはずです。
そうすると、緊張のあまり、言ってはいけないことや筋の通らない言い訳をしてしまうことが往々にしてあるんです。
ですから、例えば、過去にお父さんが預金から1,000万円を出金していたら、「これは父が孫たちと5人でヨーロッパに旅行に行ったために出金したのだと思います。」とエビデンスとともに提示できるように準備をしておくことが大事です。

 準備を全くしていなかった場合、

 調査官「奥様はご主人から生前に贈与を受けたことはありますか?」
   「いいえ、ありません。」
 調査官「そうでうすか。ところで奥様、〇〇銀行に3,000万円の定期預金お持ちですよね?」
   「ええ、持ってます。」
 調査官「奥様は専業主婦でしたよね。先ほど生前贈与は無かったとおっしゃいましたが、この3,000万円って、どういうお金ですか?」
   「それは…、主人から生活費として渡されたものを私が少しずつ貯めたものです。」
 調査官「ということは、お金の出どころはご主人ということですね。そうなりますと、いくら奥様名義の預金でもご主人の名義預金ということになりますね。この3,000万円は申告漏れですね。」
頭を抱える女性

 こんなことにならないようにしましょうね。 

富裕層は死ぬ前から税務署に目をつけられている

 日本全国の相続税を申告した方の遺産総額の平均は約2憶5千万円。
とすると、遺産総額が3億円を超えるような場合は、税務調査に入られる可能性が非常に高いということ。
こんなことはお父さんが亡くなる前から分かっていることですよね。
遺産総額3億円を超えるような方は、税務調査が必ず入ると考えて申告をする必要があります。
また、何度も申し上げますが、相続税の税務調査に伺いますという電話が入った段階で、税務署はすでに「これくらいはおかしいだろう」と分かって調査に入っているということを忘れてはいけません。
したがって、調査の前には税理士に包み隠さず打ち明けることが何よりも重要なのです。
でないと、税理士も対応しようがない。分かっていれば、先ほどの生前贈与の質問にも「年間110万円の非課税範囲では贈与がありましたよ。」とか「奥様は結婚されるまで働かれていましたから、一部はその貯蓄と聞いています。」などと答えることで、課税を少しでも抑えることができたはず。

 もっと言えば、相続前から税理士を交えて、相続税対策を練っておく

 これが最善です。

  なお、ご自身が相続税がかかるのかどうか知りたい場合や、先ほどの「お尋ね」へ回答する際に活用できるシミュレーションが国税庁から提供されています。
 「相続税の申告要否判定コーナー」というものですが、小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)及び配偶者の税額軽減(配偶者控除)を適用した場合の税額計算シミュレーションなんかもこれで行うことができるスグレモノなので、活用してみてください。

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