Q 税務調査において、売上げをわざと翌事業年度に繰り延べたのではないかと指摘されました。
得意先の検収が諸事情により翌事業年度になった結果、今期の売上げには計上しなかった旨を説明したのですが、調査官から得意先に反面調査を行い、事実を確認する必要があると言われました。
弊社の大口得意先であり、得意先の仕事の手をとめるような迷惑をかけたくないというのが本音です。
なんとか反面調査をやめてもらうことはできますでしょうか。
A 納税者や顧問税理士から得意先に確認し、これを税務署に提出することで反面調査をやめてもらえる可能性があります。
税務調査を受ける側として、最も厄介なのが「税務調査官が取引先に取引の内容などを聞きに行くこと」。これをやられると、「あ~〇〇さんとこに税務調査が入ってるみたいですね。ややこしいことしてるんでしょうかね?」と勘繰られたりすることもあります。
場合によっては、取引が切られる可能性も。何とかして避けたい気持ちは分かります。
そもそも、この取引先に聞きにいくって、法律的な根拠や手法はどんなものなのでしょう。
反面調査とは
反面調査とは、「税務調査先と取引のある取引先や銀行等に補完的に行われる調査」のことです。
通常は、調査先の帳簿類を確認するのが税務調査(実地調査)ですが、それでは不正確な情報しか取れない場合や取引に疑念がある場合に、正しいか否かを見極めるために取引先などに確認をするのです。実際に赴く場合もあれば、文書による照会をする場合もあります。
不正確な情報しか取れない場合や取引に疑念がある場合って、具体的にどういう場合なのでしょう?
反面調査が行われる理由と根拠
例えば、調査法人がとても非協力で、帳簿を見せなかったり、契約書を破棄していたりした場合。
この場合、申告の内容が正しいかどうか分かりませんから、取引先や取引銀行に確認することで、正しいかどうかを判断する。
これが最も分かりやすい例ですね。
それ以外にも、調査官が「怪しいな」と感じた場合。
例えば、調査法人は建設業、決算月に突然、普段取引の無かった外注先に1,000万円支払っている。請求書はあるけれど、「〇〇一式」みたな簡単なもの。支払いを証するものはコクヨの領収書のみ。
怪しすぎる(笑)。帳簿は整っているけれど、実際にこの取引があったのか、確認する必要があります。
こうした場合に、この外注先が本当に実在するのか?、この工事が実際に行われ、この外注先が工事をしたのか?外注先ではこの工事が売上に計上されているのか?
調査法人だけを調査していたのでは、これらの事実を確認することはできません。
こうした「反面調査」を具体的に法律で規定しているのが「国税通則法第74条の2第1項」。
次の各号に、「金銭の支払若しくは物品の譲渡をする義務があると認められる者又は金銭の支払若しくは物品の譲渡を受ける権利があると認められる者」と書かれている。
法律なんで、言い方がまどろっこしいですが、要するに反面調査の対象となるのは、取引先すべてですよね。
「反面調査に行きます」と事前に言うか?
これまで反面調査に行く理由などを説明してまいりました。
その趣旨から考えて、「明日、〇〇さんに確認しに行かせてもらいますね。」などと事前に言うわけがないと思いませんか?
先ほどの建設業の社長は、事前にそう言われたら、その外注先に電話して「お前、分かってるだろうな。明日税務署がお前の所に行くから、工事はちゃんとしたし、1,000万円を現金で確かに受け取ったと言えよ。」と、指示するのは間違いありません。
ただ、これが外注先ではなく、得意先であった場合は、法律的に事前に言う必要はないのですが、一応「仁義を切る」場合が多いです。
つまり、「こちらで確認できなかった点について、得意先の㈱〇〇に確認させていただきます。」と言う場合が多い。
税務署としても、「お前らのせいで、取引を切られたやないか!」なんていう苦情を言われたくないですからね。
反面調査に来られた場合、拒否できるか?
結論から申し上げると、拒否できません。
このように、「管轄が違う!」と言ってみたところで、質問検査権は日本全国どこでも通用するものなのです。
もちろん実地調査(反面調査先の会社への税務調査)は管轄の税務署しかできません。
反面調査で非協力的な対応を取った場合、管轄の税務署の実地調査に切り替えることはよくあることです。調査に入っている会社と反面調査をした会社で、言うことが違った場合、どちらかが嘘をついていることになります。
もしかすると、反面調査をした会社が嘘を言っている可能性だってあるのです。こうした場合は、さらに深堀りする必要がありますので、税務署同士で連絡を取り合い、調査を進めることがあります。
また、このように個人情報保護法を盾に断るケースも見られますが、税務署の質問検査はこの法律の例外とされているので、言うだけムダです。
確かに税務署の扱うデータは個人情報だらけですから、それを理由に調査を断れるなら、調査官は仕事になりません。
反面調査を避けたい場合
調査官は、会社での調査で会計帳簿と請求書、受け渡しを証する検収チェック表などを確認した上で、不審点があったのでしょう。
他の検収チェック表と様式が異なる、担当の押印がない、普段は外注先の工事が終了して1週間程度で売上げがたつはずが、決算期末の工事だけ、外注先の工事終了して2週間たってもまだ売上げが計上されていないなど。
調査官は他の取引との違いに着目しています。
その疑問にきちっと答えられないと、「何かおかしい。社長は嘘を言っているのはないか。」と思われます。
調査官が何をおかしいと感じているのか。調査官が「なるほど、そういう事情で、この検収チェック表だけ様式が異なるのですね。」と腑に落ちてくれないと、反面調査は実施される可能性が高い。
反面調査をすれば、得意先では検収日が異なるかもしれない。得意先の売上先(例えば施主や消費者)に受け渡しした日などをチェックすれば、すぐに真実はわかる。
真実を明らかにするのが調査官の仕事です。
繰り返しますが、税法上、反面調査をすることは何の問題もありません。
しかし、その運用に当たっては、「客観的に見てやむを得ない場合に限って行う」と規定されています。
調査の現場で分かることや納税者の方で証明できることまで、反面調査していいものではなく、納税者への調査では真実は分からないから、仕方なく確認する、というスタンスなのです。
とすると、納税者の方で、「証拠に値する資料を得意先からもらってきます。」とした場合、税務当局が無理に反面調査を行う必要性は乏しいと考えられます。
真実を提示する姿勢を見せることがポイント
税務当局は、こうしたことを認めると真実を隠されるリスクがありますから、常に認めるとは限りませんが、反面調査による信用失墜のリスクを説明し、必ず真実を調査官に提示するというこちらのスタンスを粘り強く説明することで、少なくとも納税者による確認を待ってくれるはずです。
しかし、仮に不正行為をしていて、それを隠すために反面調査を行かせないような作戦を取った場合、調査官の態度は硬化することは間違いありません。
私が調査官時代には、こちらが社長に誠実に対応しているにも関わらず、こうした不正行為を暴かれるのを妨害するような行動をとった場合、他の怪しいことも全て反面調査や銀行調査をして確認していきました。
普段はそこまでしないだろうということまで徹底的に調査を尽くしました。
調査官に「社長、あなたの言うことは全く信用できない。全て確認する。」と言われたら、太刀打ちできません。
質問検査権という権利を調査官は持っているのですから。
調査官から無用の疑いをかけられているだけで、あなたの言っていることが真実である場合だけ、この手法を使ってください。
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