【税務調査】「社長、机の中を見せてください」★現況調査を回避せよ!

社長、机の中を見せてください★現況調査を避けるノウハウ

Q 税務調査において、「社長の机を見せてください。」とか「パソコンを確認させてください。」と言われました。別に見せて困るようなものは何も入っていませんが、プライベートなものも入れているので、見られたくありません。
必ず見せなければならないのでしょうか。

A 断ることができます。

 税務調査を受けるっていうのは、とてもストレスですよね。
税務署は怖い!と考えておられる方は余計にその思いが強い。
本題に入る前に、「税務調査の手続き」に少し触れておきましょう。
平成23年までは、税務調査の通知方法や問題事項の提示方法、終了時にどう伝えるかなどについては、細かく法律で定められていませんでした。
平成23年12月に国税通則法が改正されて、そのあたりの手続きが明確にされます。
手続きが明確化されるということは、調査官にしてみれば、それだけやらなければならないことが増えるわけで、事務量は従来の1.5倍くらいになりましたが、決まったことはやらざるを得ません。
これまで、曖昧にしていたことをはっきりさせたわけですから、税務職員の認識も改めなければなりません。
こうした理由から、国税庁長官が各国税局・税務署に「今後はこういうスタンスで税務調査を進めるから、頭に入れて実行するように」というお達しを出します。
調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」というお達しです。
税務調査手続の流れ
税務調査の手続き1
税務調査の手続き2

税務調査というものが、どういうルールで進められるのかが、よく分かると思いますので、経営者の皆さんは読んでおいて損はないと思います。

さて、本題に入りましょう。
税務調査の際に、机の中や金庫の中、あるいはパソコンのデータを確認する調査を「現況調査」と言います。
調査官は、税務調査の初日の午前中に、社長から会社の概況を聞きます。
会社の業務内容、得意先はどこか、売上げはいつ計上しているか、
外注先はどこか?その中に個人事業者はいるか、支払手段は何か、
従業員は何人いて、どのように勤怠管理しているか…
などなど。
概況を聞きながら、提示された帳簿類をチェックしていきます。
その帳簿類は請求書綴りや領収書綴りなど、あらかじめ税務調査で調査官に提示するために準備されたものです。
会社がやましいことをしている場合や、税務署に突っ込まれたくないなぁと思っている箇所がある場合、調査官がチェックすると分かっている書類にその痕跡を残すでしょうか?
確かに帳簿類を確認しただけで、「ん?何か変だな」と感じることもありますが、提出された帳簿類だけでは真実は分からないことが一般的です。
税務署に見せてはいけないものがどこかにあるんじゃないか?あるとしたら、それは従業員が持っているものではなく、社長が持っているだろう。
調査官はそう考えます。
会社の概況の聴き取りの際、あるいは帳簿チェックの際に、調査官の経験上、あるはずの書類がない場合や、どうも社長が嘘を言っているのは?と感じた時、調査官は「現況調査をして、税務署に提示していない書類を見つけ出そう」と、こう切り出します。 

調査官「社長の机の中を確認させてください。」
社 長
「一体何のために確認するんですか?」
調査官「社長が普段、チェックしているものや決裁の状況など、ありのままの状態を確認する必要があると判断しました。」
社 長
「机の中にはプライベートなものも入っているから困る」
調査官「机は会社のものです。その中にあるものは基本的に会社のものですから確認させてください。プライベートなものは机の上にまず出していただければ結構です。」
社 長(プライベートなものを机の上に出す)
調査官(その机の上のものを確認する)
社 長「それはプライベートなものだと言っただろう!」
調査官「プライベートなものかどうかの判断は調査官である私がします。本当にプライベートなものなら、しっかり見ませんから。あれ?この請求書、何ですか?」
といった具合です。
私が若手調査官だった頃、この現況調査を度胸試しのごとく、必ずやれと指導されたものです。
法律的根拠はないので、言ってみてOKだったら取り掛かるのです。
したがって、調査官の説得力がカギになってきます。

調査官の経験値はあなたより上

机の中やパソコンの中を承諾無しに見ることができるという法的根拠はありませんので、もちろん断ることは可能です。
調査官は納税者が何かやましいことをしているのではないか、と常に勘ぐっています。
「怪しいな」と感じたら、「机の中を確認させていただいてよろしいですか?」とたずねてきます。
調査官も熟練になってくると、現況調査を無理やりすることはしません。
税務調査の過程で、通常は作っているはずの帳簿類がないといった場合。
例えば、建築業などで、外注先が何先かある場合、出面帳(どの外注先がどの現場で仕事をしているかを記載した帳簿)や工事台帳(現場ごとの売上げや経費、粗利などを記載した帳簿)を作成していることが常です。

そこで、調査官が「社長、工事台帳はありますか?」と質問する。
社 長「いや、うちはそういうものは作っていません。」
調査官「えっ!?そうですか?じゃあ、工事ごとの粗利や追加工事があってもいくら儲かったか、分からないってことですか!?」
社 長「そ、そんなものはすべて頭の中に入っています。」
調査官「そうですか。じゃあ、出面帳を見せてもらえますか?」
社 長「それも作っていません。」
調査官「ええっ!じゃあ、今日、どの現場にどの外注先がどこにいるか分からないってことですか?」
「以前のものを出してほしいって言ってるわけじゃないんです。今日、来週、再来週、どこに外注先がいるか分からない、そんな社長を今まで見たことありませんねぇ。」
社 長「………。過去の分は捨ててありませんけど。今のはここにあります。」
調査官「どこ?あれ?その横にあるノートは何ですか?ん?「令和3年度・出面帳」?これ、過去の出面帳じゃないですか!」
社 長「あれ?捨ててなかったか(汗)」
調査官「捨てたとおっしゃっていたものがあるじゃないですか!社長のおっしゃることは信用できませんね。ちょっと机の中を確認させてもらいますね。」
こうなると、もう現況調査を断ることはできません。
一度嘘をついたことがバレてしまうと、調査官の方があなたより立場が上になってしまいます。

調査官はこうした場面を何回、何十回も経験をしているので、あなたとはこうした場面の経験値が違います。
現況調査

パソコン、メールまでチェックする

一昔前は「机や金庫の中を確認すること」を「現況調査」と呼んでいました。
平成の2桁くらいからでしょうか、紙の帳簿が会計データに代わり、請求書や見積書がfaxや郵送からメールに代わりました。
国税局もその流れに遅れまいと、平成13年から通称「電商チーム」(電子商取引担当統括国税実査官)という部署を作り、ネット上の取引に目を光らせるようになりました。
税務署では情報技術専門官という部署を設置し、ICTに詳しくない調査官に同行するようになります。
また、ICTの普及により、電子データを分析して不審点を抽出したり、納税者の不正を暴いたりする手法が開発され始めます。
例えば、一度削除したデータを復元したり、メールの中から特定のキーワード(「付け替え」「棚卸」「架空」など)を抽出したり。
もちろん、弥生会計やPCA会計、勘定奉行など大手の会計ソフトは国税局に全て揃っていますし、その特徴を頭に入れている調査官も少なくありません。
会計ソフトを分析すれば、決算期末や決算期後に入力した仕訳を抽出することもできますし、削除した仕訳を簡単に復元できるソフトもあります。
会計ソフトいろいろ

不正が発覚する例としては、小売り業を営む社長が、3月の決算期末に実地棚卸しを支店にいる部下にメールで指示をする。
4月上旬になって、部下から「Re:実地棚卸について」という表題の返信メール。
このメールに添付されている棚卸データと税務署に提出した棚卸一覧表とが違う。
メールをチェックされた結果、棚卸商品を減らすことにより所得を圧縮したことがバレてしまいます。

あるいは、飲食店を複数店舗経営する社長が、各店舗から集約した売上げデータを合計する際に一行すっ飛ばす。
「売上集計表」の紙をパッと見ただけでは分かりませんが、データを分析すれば、すぐに一行すっ飛ばしたことがバレます(コレを「集計違算」と言います)。

簡単な例を挙げましたが、不正行為を行うために、メールやexcelを使う例は、紙のメモなどよりも多くなっています。
そこを調査官が素通りするわけはない、と考えておいてください。
それ以前の問題として、幼稚な不正行為を行うのはやめましょうね(笑)。

机、金庫、PCに余計なものは入れておくな

こうしたことを聞かれるのだとあらかじめ想定しておく。
余計なものを出す必要はありませんが、嘘は言わない。

そこをわきまえた上で、調査官が無理筋を通して「机の中を見せてほしい」「パソコンのデータを確認させてもらう」と言われる場面があるなら、必要なものはすべてお出ししますので、それはやめてください。」とはっきり断りましょう。

それでも、あなたの目を盗んで調査官が机や棚などを勝手に確認した場合、即座に「私が了解していないのに勝手に見るのは何事か!」と抗議することです。
なぜ「即座に」なのか?
「見られたくないけど、調査官に『勝手に見るな!』なんて抗議したら厄介なことになりそうだ」と、その場で抗議しなかったとしましょう。
後々、腹が立ってきて、問題にしようと思っても、「あの時、抗議しませんでしたよね?」と返されてしまうのです。

裁判などに発展することはほぼありませんが、過去にそのようなことが問題になった事例では、何も抗議しなかった場合、「承諾した」と見なされたことがあります。
これを「黙示の承諾」というのですが、「抗議しなかったということは承諾したも同じ」と判断されることになります。

私見ですが、多くの場合「税務調査に伺います」と税務署から事前に通知があるにもかかわらず、見られるかもしれない机の中やパソコンに余計なものを入れておくこと自体、どうなんでしょう?
私は調査官時代に、現況調査を何度もしましたが、これがきっかけで多額の不正経理を発見できたのは10回に1回程度。
この1回、バレた社長は、税務調査の準備をしていないか、調査官をナメてかかっているか、どちらかでしょう。

国税OB税理士による税務調査対策グループ問い合わせ 入口基本ver 辻元税理士事務所

 

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