【税務調査】重加算税を回避せよ!元調査官が明かすホントのデメリット

税務調査★重加算税を回避せよ

Q 先日、税務調査で約500万円の売上げの計上漏れが見つかりました。売上げを隠す意図は全くなく、事務員が現金回収したものを別保管し、記帳していなかったというのが実情です。
しかし、調査官からは「売上げが漏れるなんてことはあり得ない。重加算税対象です。」と言われました。こちらにも落ち度があったので、調査官の言う通り重加算税を受け入れ、修正申告すべきでしょうか。(売上げ8億円の卸売会社)

A 社長に本当に隠す意図が無かったという前提ですが、この場合は「売上げを隠す意図はなく、漏らしていましたので、重加算税対象ではなく過少申告加算税対象であれば、修正申告します。」と反論してください。

税務調査の場面で「重加算税か、過少申告加算税か」という議論は、よく行われる議論です。
まず、重加算税って何?というところから話を始めていきましょう。

重加算税とは?

まず、重加算税ってどういうものでしょう?
日本は戦後、「申告納税制度」という制度、つまりお上から決められた額を納付するのではなく、自ら申告する制度を採用しました。
てことは、中には申告しない人や遅れる人、少なく申告する人が出てきます。
「正直者が馬鹿を見る」ではいけませんので、行政制裁として定められた税金を「加算税」と言います。
この加算税に延滞した場合の税金(延滞税と利子税)を加えたものを附帯税といって、通常の所得税や法人税と区別しています。
附帯税・加算税の種類

行政制裁ですから、種類ごとに通常の税金に加えた税率が加算されます。
加算税の税率一覧表
例えば、税務調査において、追徴税額が100万円でした。

この原因が経理ミスで、過少申告加算税対象なら、プラス10万円(100万円×10%加算)され、支払う税金は110万円
この原因が不正行為で、重加算税対象なら、プラス35万円(100万円×35%加算)され、支払う税金は135万円、ということですね。

重加算税の加算割合がかなり高いことが分かりますね。
では、重加算税が法律にどう書かれているか。過少申告加算税に代わる重加算税に絞って見ていきましょう。

国税通則法68条①

過少申告加算税が課される場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を仮装・隠蔽し、その仮装・隠蔽したところに基づいて納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税の基礎となる税額の35%に相当する重加算税が課せられる。

さらに、国税庁は、重加算税をこういう場合にかけますよという通達を出しています。

法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)抜粋

(1) いわゆる二重帳簿を作成していること。
(2) 次に掲げる事実(以下「帳簿書類の隠匿、虚偽記載等」という。)があること。
① 帳簿、原始記録、証ひょう書類、貸借対照表、損益計算書、勘定科目内訳明細書、棚卸表その他決算に関係のある書類(以下「帳簿書類」という。)を、破棄又は隠匿していること。
② 帳簿書類の改ざん(偽造及び変造を含む。以下同じ。)、帳簿書類への虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証ひょう書類の作成、帳簿書類の意図的な集計違算その他の方法により仮装の経理を行っていること。
③ 帳簿書類の作成又は帳簿書類への記録をせず、売上げその他の収入(営業外の収入を含む。)の脱ろう又は棚卸資産の除外をしていること。
(3) 特定の損金算入又は税額控除の要件とされる証明書その他の書類を改ざんし、又は虚偽の申請に基づき当該書類の交付を受けていること。
(4) 簿外資産(確定した決算の基礎となった帳簿の資産勘定に計上されていない資産をいう。)に係る利息収入、賃貸料収入等の果実を計上していないこと。
(5) 簿外資金(確定した決算の基礎となった帳簿に計上していない収入金又は当該帳簿に費用を過大若しくは架空に計上することにより当該帳簿から除外した資金をいう。)をもって役員賞与その他の費用を支出していること。
(6) 同族会社であるにもかかわらず、その判定の基礎となる株主等の所有株式等を架空の者又は単なる名義人に分割する等により非同族会社としていること。

少しかみ砕くと、重加算税の要件は2つ

①過少申告加算税を課される要件を具備していること
②納税者が税額計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装することによって税額を過少計算し、申告書を提出していること。

①はまず申告した内容が間違えているってことですよね。
問題は②

事実を隠ぺいし、又は仮装

難しい言い回しですよね。普段使わない言葉です。これを解説していきます。
隠ぺい又は仮装って?
まず、この「隠ぺい又は仮装」の典型的な例を挙げていきます。
隠ぺい・仮装の典型的な例

二重帳簿の作成や請求書を書き換えた、あるいは経費の領収書を作ったっていうのは分かりやすいですね。
明らかに不正行為で、重加算税の対象となります。
では、ご質問者のような売上げが漏れていた場合はどうでしょう。
売上げが漏れていたのか、故意に売上げにあげなかったのか

隠ぺい・仮装に社長の認識は必要か?

ミスであったか、故意であったか
これって難しいですよね。何をもって判断するのか?

まず、社長が知っていたか知らなかったかということが重加算税の要件になるのか?

学説が分かれるほど微妙な問題ですけど、結論から言うと社長が知らなくても重加算税が課されることはあるんです。
平成2年の東京地裁判決では、仕入れの二重計上が重加算税対象となるか争われましたが、経験豊かな経理担当がこんな大きな金額のミスをするとは考えにくいと判断され、国が勝訴しています。
ただ、判例によっては、①確定的な意図と②客観的な外的事情が必要(平成6年最高裁)と判断しているものもありますから、ご質問者の場合、売上げ8億円の会社で約500万円という規模、事務担当者の熟練度、売上げの管理状況などから総合的に判断すべきでしょうね。

調査官がどうして「売上げが漏れるなんてことはあり得ない。」と考えるのか、そこを議論する必要があります。

不正行為の立証責任は税務署が負います
どこに仮装行為や隠ぺい行為があったのか、税務署が立証しなければなりません。

「この売上金は別保管しておけという社長からの指示があった」
「別保管の現金について、事務員が社長に報告した記録が残っていた」
「売上げを抜くと、棚卸時に数百万円分の誤差が出ているのに、その分棚卸金額も減らしていた」

こうした事実が調査現場で把握されたなら、税務署は会社の不正行為(仮装・隠ぺい)を立証したことになり、納税者側は重加算税を受け入れざるを得ません。
脱税メモ

税務調査でウソをついたら重加算税?

税務調査で調査官の鋭い質問に対して、ウソを言ってしまった。
税務調査で何の問題点もなければ、特に罰則等はありませんが、過少申告加算税か重加算税かという問題に結びつく時には影響してきます。

申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)
第1 賦課基準
(隠蔽又は仮装に該当する場合)
1(8)調査等の際の具体的事実についての質問に対し、虚偽の答弁等を行い、又は相手先をして虚偽の答弁等を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、申告時における隠蔽又は仮装が合理的に推認できること。

基本的には、重加算税の要件となる行為は申告時までに行われた行為とされていますが、ウソをついたという悪質性から「当初から課税を回避しようとする意図があったものと推認され」(昭和52年東京地裁)ると判断されることになります。
調査時にウソを言うのはやめておきましょう
一方で、税務調査で質問される内容は何年か前のことが多いですよね。
何年の前のことを正確に覚えている人はいませんから、本当に記憶が不正確な場合はすぐに回答せず、「確認した後に回答します。」という対応がベストでしょう。

調査官が無理やり重加算税を取りに来る場合もある

調査官は国家公務員ですから、サラリーマンです。当然、人事査定もあります。
この人事査定時に、何をもって優秀な調査官と査定されるか。
色々査定要素はありますが、税務調査が何のために行われるかを考えれば分かりますよね。

ミスを指摘するのも調査官の仕事ですが、やはり不正行為を見つけてナンボなわけです。
あからさまにノルマがあるわけではありません(件数のノルマはあります)が、調査に20件行って納税者の不正を一度も見つけられなかったとなると、やはりそれは「ダメ調査官」のレッテルを貼られることになります。

逆に20件調査に行って、納税者の不正を8件見つけた。
不正発見割合4割!優秀な調査官だ!となるわけですね(税務署は「不正発見割合」を数値化して、税務署や部門、調査官単位で管理しています)。

したがって、調査官としては500万円のミスよりも500万円の不正を発見する方が都合がよろしい。
納税者側として見れば、調査官から強く「重加算税対象です」と言われると、受け入れるのが普通なのかなぁと考えてしまうかもしれません。
本当にあなたが不正行為をしていて、これを税務署に立証されたなら、素直に重加算税を受け入れるしかありませんが、そうではない場合は安易に受け入れてはいけません

なぜでしょうか?

重加算税のデメリット

支払う税金が大きくなる

修正申告をすれば通常の加算税は10%です。重加算税なら35%となり、25%も増えます。
法人事業税にも重加算金として35%の税金がかかります。
府県民税、市民税には重加算税はありません。
また、ご質問者の場合、売上げ除外を認めたとすると、当然消費税にも影響してきます。
重加算税は法人税だけではなく、消費税も重加算税が掛かるんです。

消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)
Ⅳ 重加算税の取扱い
所得税又は法人税(以下「所得税等」という。)につき不正事実があり、所得税等について重加算税を賦課する場合には、当該不正事実が影響する消費税の不正事実に係る増差税額については重加算税を課する。

消費税が10%になった現在、これは痛いです。
そして、加算税から少し離れますが、この売上げを抜いたお金をどうしたか(金庫に入れたまま?社長が使った?)によっても税額が変わってきます。

調査官「抜いた売上げ500万円は社長が使いましたって処理にしておきますね。」
社 長「あ、はい。」

そう答えてしまったら、あなたが払う税金は倍くらい多くなります。
つまり、「社長が使いました」ということは「社長への賞与(ボーナス)が払われた」ということ。
本当なら、「抜いた売上げを元に戻し、役員報酬という経費が増えるのだから、所得としては変わらないんじゃないの?」と考えてしまいますが、コレがトラップなんですね。

「役員報酬は、定期同額に支払われないと損金にならない」(法人税法第34条)

抜いた売上げ500万円は社長への賞与となると、定期同額に支払われる役員報酬とは違いますから、損金にはならないんですね。これで法人税課税
売上げを抜いたのですから、消費税も抜けてます。これで消費税課税
そして、社長は賞与をもらったわけですから、これに源泉所得税がかかります(これを「認定賞与」といいます。)これで所得税課税

「幸い」かどうだか分かりませんが、源泉所得税は重加算税はかかりません。
しかし、法人税、消費税、所得税のトリプルパンチで、しかも2つの税目で重加算税がかかるのは痛すぎます。
税務調査に頭を悩ませる社長

ご質問者の場合、計上していなかった売上げのほとんどを税金で持っていかれる計算になります。

重加算税と過少申告加算税で支払う金額の差

延滞税も高くなる

附帯税の中には、加算税のほかに延滞税というものがあります。
本来申告期限までに正しい税額を払うべきだったのに、過少申告をしていたから、少ない税額しか払っていない。
その差額に対する利息のようなものですね。
延滞税が発生するのは通常、納付期限から1年間のみ。それを超えた分は上乗せされないというルールがあります。
しかし、重加算税の場合は、1年を超えた部分にもずっと延滞税がかかってしまうんです。
延滞税は利率のようなものと申し上げましたが、この利率がなんと基本的に14.6%!
消費者金融並みの利息がかかってくるわけです。
通常なら調査で3年前の修正申告をしても、1年分の延滞税しか発生しませんが、重加算税なら3年分の延滞税がかかります。
府県民税、事業税、市民税に対しても延滞金がかかります。

重加算税を簡単に飲んではいけない理由が、税額の違いからもお分かりいただけましたか?

次の税務調査の確率が高くなる

税務署に税務調査の履歴は、申告事績と同じように後に残るようになっています。
税務調査先を選ぶ時、申告内容をチェックするのはもちろんのこと、過去の調査履歴もチェックします。
前回の税務調査で重加算税を賦課されたというデータから、3年後には必ず自動的に調査対象に上がってくるシステムになっているんです。
前回調査不正発見法人」として。
これは相当に不利です。

その他(融資や入札などが不利)

融資を受けている会社などは格付けが下がり、支払利息が上がる可能性があります。
申告書の別表などから、銀行は修正申告を提出したことはすぐに分かります。
銀行マンは当然「修正申告を確認させてください。」と求めてくるでしょう。
「重加算税を賦課されるということは、不正をしたということ。そんな会社の決算書は疑ってかからないといけないな」と銀行マンが考えるのは当然でしょう。
他にも
上場を考えている会社は2年間は上場できない
公共工事等の入札に制限がかかる
社長が外国籍の場合、日本国籍を取得する際に制限がかかる
等のリスクがあります。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
お金の問題もさることながら、他にも様々なリスクがあることがお分かりいただけましたか?
しかし、先述した通り調査官も百戦錬磨で、重加算税の賦課を狙っています。
あなたが不正をしていないという状況なら、税務署に対して、しっかり抗弁してくれる百戦錬磨の税理士を選びましょう。
問い合わせ 入口基本ver 辻元税理士事務所
国税OB税理士による税務調査対策グループ

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