Q 設備会社を経営しています。これまで個人で入っていた生命保険を会社でかけようと考えています。節税もしたいし、退職金の原資にも使いたいのですが、保険がややこしすぎてよく分かりません。保険が節税には使いにくくなったとも聞きました。そのあたりも詳しく教えてください。
A 2019年7月8日以降に契約した保険契約(定期保険)については、最高解約返戻率によって取り扱いが異なるというルールに変わりました。保険の種類ごとに見ていきましょう。
保険が節税に使えなくなった!
バレンタインショック※以降、保険営業は大変だ!
よく聞きますよね。
※バレンタインショック……「節税効果」があるとして、生命保険各社が中小企業経営者らに競って販売した死亡定期保険に対し、国税庁が全額損金にする処理を見直すと発表。保険会社が該当商品の販売停止・売り止めに追い込まれた。2019年2月14日から各社が販売停止措置をとったことから、業界ではこう呼ばれる。
まぁ、もともと節税ではなく、税金面から言えば、利益の繰り延べなんですけど、
・多額の利益を計上すると、元請会社から取引条件を厳しくされてしまうから、保険で決算上の利益を引き下げておこう
・1期でも赤字になると、金融機関の印象が悪くなったり、取引先との条件や経審のポイントに影響が出てしまったりするから、保険で含み益を作っておき、決算書上の赤字を回避しよう
という保険の含み益を使えるという効果はありました。
生命保険の3つの基本形態
何はともあれ、生命保険ってややこしいですから、まず保険の種類について整理しておきましょう。生命保険を大きく分けると、この3つ。
①定期保険
定期保険とは、被保険者が死亡した場合に死亡保険金を受け取ることができる生命保険です。契約時に一定期間の保険期間を定めています。満期返戻金がなく、いわゆる「掛け捨て」といわれる保険です。
②養老保険
養老保険とは一定の保険期間がある生命保険で、死亡時には死亡保険金が、契約満了時には満期(生存)保険金が受け取れるという保険です。また、死亡保険金と満期(生存)保険金で受取人を変えることができるので、法人として様々な使い方ができます。
③終身保険
終身保険とは、契約期間がない終身の保険で、一生涯にわたって保障される保険のことです。必ず死亡保険金を受け取ることができる保険として、加入者にメリットがあります。
定期保険で節税が難しくなった
まず、今回の税法改正でターゲットにされた定期保険
定期保険は、掛け捨てが基本でしたから、死亡保険金の受取を会社にしようが、従業員の遺族にしようが、原則は全額損金に算入できていました。しかし、定期保険の中には、死亡保険金額が保険期間中に徐々に上がっていく「逓増定期保険」などがあり、これは一部のケースを除いて保険料は全額損金とならないという商品でした。なぜなら、支払った保険料の80%以上が解約時に「解約返戻金」として契約者のもとに戻ってくる仕組みをとっており、これほど多くのお金が戻ってくる以上、保険料は損金にならず、資産として計上すべき、というのが国税庁の考え方だったからです。
しかし、通達を研究した日本生命が、10年目に解約したら保険料の80%が戻ってくる、だけど全額損金にできます!という商品「プラチナフェニックス」を2017年4月に販売。雪崩をうったように生保各社が同じような商品を販売しまくりました。
そりゃ国税庁は怒ります。っていうか、なんで事前にこれを許可した金融庁と国税庁は擦り合わせをしなかったのか?縦割りだなぁ~と思ったりするわけですが、それはさておき、国税庁は2年弱経って、通達を改正したわけです。
法人税基本通達9-3-5の2という規定を新たに追加し、保険の種類や期間ではなく、解約返戻率によって、損金にできる割合を決めたんですね。
対象となる保険は、保険期間3年以上の定期保険・医療保険・介護保険・傷害保険で、かつ支払保険料が給与とならないものです。
少し補足すると、保険期間3年未満の定期保険なんてほぼないですから、定期保険についてすべて改正対象になったと言えます。支払保険料が給与になる場合というのは、役員だけ生命保険に入る場合などは支払保険料ではなく、給与(役員賞与)となり、そもそも定期同額でないことから損金にはなりませんでした。
簡単にまとめると、解約返戻率が高い保険については契約当初期間、ほとんど損金にできず、資産計上し、その後徐々に資産計上したものを取り崩して損金化するという形になりました。
解約返戻率の高い定期保険はすぐには経費化されない
解約返戻率が50%以下なら全額損金になりますが、解約返戻率が高い定期保険は随分時間が経ってからでないと経費化できないということですね。
貯蓄性が高い定期保険を経費化できるっていうのは、やはり違和感がありましたから、税制が実態に追いついたということなんでしょうね。
では、養老保険はどうでしょう。
生き残った養老保険
実は、定期保険と異なり、従来通りの取扱いが可能なんですね。
手足を縛られた定期保険がしぼむ一方で、やり方によっては節税できる養老保険は俄然注目を浴びることになりました。
税金の取扱いはこの表のとおり(以前から変わってません)
この養老保険は、従業員に退職金を支払う原資として活用されることが多いですね。
一番下の黄色い部分のように死亡保険金を従業員、満期保険金を会社にするほか
・原則、全役員・全従業員が加入すること
・保険金額に格差が有る場合は合理的理由があること。
・役員、従業員の大半が同族関係者ではないこと
という条件を満たせば、福利厚生の一環である「退職金制度」の原資として養老保険が使えます。
最初の項目で「原則、全役員・従業員」と書いていますが、福利厚生制度が目的なので、条件が平等であればいいわけですから、例えば入社3年目以上の従業員だけを対象とすると決めても構いません。
これらの条件さえ満たせば、 保険料の1/2を経費とし、残り半分を資産計上することで、会社が退職金と死亡退職金の両方を用意することができます。
ちなみに、社長・役員も従業員と同様に加入することも可能です。
満期保険金は会社に入りますから、懲戒解雇などで退職する従業員には退職金を減らすということも会社の判断で可能になりますし、契約者貸付制度を活用して緊急時に事業資金として利用することもできます。中小企業退職金共済(中退共)では不祥事を起こした従業員にもきっちり退職金が支払われてしまいますし、掛金も従業員の個人財産という扱いなので、事業資金として利用することはできません。その意味で養老保険は使えますよね。素晴らしい!
デメリットを挙げるとすれば、従業員が早期退職した場合に保険も解約することになりますので、解約返戻金が掛金よりも少ない、いわゆる掛け損が起こる可能性があることです。また、健康上の理由で保険に加入できないこともあります。
終身保険は貯蓄型で節税はできない
3つ目は終身保険
終身保険については、いずれは必ず保険金を受け取ることができます。貯蓄性のある保険であることから、法人が保険金受取人であれば、支払保険料は保険積立金として資産計上しなければなりません。一方で、被保険者の遺族が保険金受取人であれば、支払保険料は被保険者への給与となります。
最後に、生命保険の税制改正で、もう1つ注目したいのが、30万円ルールです。
これが使える保険は2種類。
A 払込保険料が払込みの都度、全額損金算入となる場合
これは以下の3つの条件を全て満たす必要があります。
イ 保険期間を通じて解約返戻金がないか、あってもごくわずかな定期保険・医療保険※であること
ロ 短期払いであること
ハ 一事業年度の払込保険料の合計額が30万円以下であること
※ 正確には第三分野保険といって、医療保険・介護保険、傷害保険を言います。
ロの「短期払いであること」を少し補足しますね。
「短期払い」というのは、保険期間よりも短い期間で保険料を払い終えることをいいます。
これに対する払い方は、「全期払い」。「全期払い」というのは、保険期間と同じ期間で保険料を払うこと。終身タイプなら、死ぬまで払い続けるタイプですね。
この「全期払い」は、30万円ルールでなくても、イの解約返戻金がないか、あってもごくわずかという条件さえ満たせば、全額損金になる。だから、30万円ルールを説明するときには外されているんです。
「終身保証されている保険を10年で払いました」といった「短期払い」は、30万円を超えると全額損金にならない。
例を挙げてみましょう。
このような終身タイプの医療保険を10年という短期払いした場合、保険料払込期間中は、支払保険料のうち「年間保険料×保険料払込期間÷保険期間」で算出した金額を支払保険料として損金算入、残りは前払保険料として資産計上していくんですね。
終身タイプの医療保険の保険期間は「116歳-契約年齢」で計算します。
つまり、計算すると
60万円×10年÷(116歳-40歳)=78,947円
支払保険料 78,947/現金預金 600,000
前払保険料 521,053/
年額30万円を超えた医療保険の場合、この例では60万円のうち損金になるのは78,947円のみ
11年目以降は、資産計上された前払保険料を少しずつ取り崩して損金にしていく。
支払保険料 78,947/前払保険料 78,947
医療保険で短期払いすると、一事業年度の払込保険料の合計額が30万円を超えた場合、ほとんど損金にできないことが、お分かりいただけましたか?
30万円ルールは医療保険の短期払いでうまく使う
B 年換算保険料相当額が全額損金算入となる場合
これは以下の2つの条件を全て満たす必要があります。
イ 最高解約返戻率が50%超70%以下の定期保険・医療保険であること
ロ 一被保険者あたりの年換算保険料相当額(保険料総額÷保険期間)が30万円以下であること
イは、定期保険は先ほどの図のこの部分ですね
医療保険で終身タイプの10年払込
入院日額5,000円
先進医療2,000万円
介護一時金200万円
といった商品なら年額30万円弱で組めて、全額損金にし、払込終了後個人に名義変更という技が使えそうですね。
生命保険で事業用資金をプールできる
「生命保険は節税対策に使いにくくなった。」と言われますが、それでもまだまだ使えることがお分かりいただけましたか?
最後に、私自身がとても感動した生命保険商品があるので、それをご紹介したいと思います。
定期保険が使いにくくなった反面、養老保険が脚光を浴びる結果となったことは先に申し上げました。
この養老保険をさらに進化させ、満期時期をずらすことができる商品があるのです。
満期時期をずらすことによって、何ができるか?
例えば、被保険者を従業員とし、満期保険金の受取人が法人という養老保険。満期時期を従業員が50歳時点に設定したとしましょう。養老保険ですから、諸条件を満たせば、半分経費化され、半分資産計上していきますよね。
そして、途中で満期時期を従業員が50歳時点から65歳時点(60歳でも構わない。とにかく退職年齢より前まで後ろ倒しする)に繰り下げるのです。
この図でイメージしてみてください。
そうすると、生命保険は「当初契約」から「繰り下げ後の契約」に切り替わる。
その結果、赤い★の部分が会社に多く溜まりすぎていることになりますよね。
この★の部を死亡保障はそのままに、退職金の原資も残したまま、資金難の際に現金化できるのです。
この商品はイレギュラーな商品ですから、税法の取扱いが追い付いていません。しかし、定期保険の場合の考え方(国税庁Q&A 定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQのQ12)を参考にして考えると、繰り下げ後の保険期間で加入したであろう保険積立金と現実の保険積立金の差額を積立金から取崩し、残りは雑収入として処理するのが妥当と思われます。
ちょっとややこしいかもしれませんが、要は、利益の繰り延べを調整でき、資金繰りも調整できるということ。養老保険と年金保険のいいとこどり!
このような養老保険と年金保険のミックスタイプの保険は特定の保険会社で商品化されていますので、これらをうまく使いこなせば、生命保険は「節税」というより保障、事業資金、福利厚生(退職金制度)といった側面でガンガン使えそうですよね。
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