配偶者居住権で節税せよ(令和2年4月施行の相続税法)

手をつなぐ老夫婦

Q 父が高齢(77歳)で相続対策を考えています。相続税法が改正されたと聞いたのですが、何か節税できる方法はありますか。

A 相続税法の改正により、配偶者居住権を使った節税策が注目されています。

 2020年4月1日、改正相続税法が施行されました。その中で最も注目されていたのは、「配偶者居住権」というもの。
 これは、夫が亡くなった時に妻が自宅から追い出される事態を避けるために創設された権利。

 なんで、家族である息子から母親が追い出されるの?と思ったかもしれませんが、この権利が作られる際に想定したのは、夫が再婚者で先妻との間に子供がいるケース。

配偶者居住権ができた経緯

 なぜこのような権利ができたか?
 これまで、非嫡出子(姻戚関係のない男女、つまり愛人の子)の相続分は、嫡出子(夫婦の子)の相続分の半分でした。
 簡単な例を挙げると,太郎が死亡して,その相続人が太郎の妻・花子,子2人(2人とも妻との間の子で嫡出子)の場合,法定相続分は,花子が1/2,子2人がそれぞれ1/4ずつとなります。
 他方,相続人が,妻・花子,子2人(子の内1人は太郎と花子との間の子(嫡出子),もう1人が太郎と愛人との間で生まれた非嫡出子)の場合,法定相続分は,花子が1/2,嫡出子が2/6,非嫡出子が1/6という分け方でした。

 ところが、平成25年にある裁判所の判決がでます。嫡出子と非嫡出子の相続分と同等にするという最高裁判所の決定です。子供の側からは、結婚している親(妻)から生まれるか、結婚していない親(愛人)から生まれるかを選択できないのに、差があるのは平等ではないよね、という理屈です。この最高裁判所の判決により、被相続人死亡後の妻の立場が危うくなるのではないかという危機感から「配偶者居住権」という権利が生まれたわけです。

 つまり、残された妻が前妻の子や愛人の子と遺産争いになったときに、妻が今まで住んできた自宅を追い出されるような事態になってしまう可能性が増えるのではという危機感です。
 自分の子供であれば自分の親を追い出したりしませんが、血の繋がりのない前妻の子などと遺産争いになったら、そういう事態がありえますよね。

そもそも「配偶者居住権」って?

 「配偶者居住権」について、分かりやすくイメージ図にしているので、これを見てください。
配偶者居住権のイメージ図

 夫が自宅5000万円と預貯金5000万円を遺して、死亡した場合、妻と子の法定相続分はそれぞれ2分の1ずつ。相続税法の改正前なら、妻が5000万円の自宅をもらったら、子が預貯金5000万円もらうという分け方が一般的でした。しかし、これでは妻は住むところはあるけれど、生活するお金がないという事態を招く。

 そこで、今回の相続税法改正で、自宅を「所有権」と「居住権」に分けて相続できるようになった。これで、妻は自宅に住み続けながら預貯金も確保できることになったのです。

 この居住権は、妻が死ぬまで保障されているので、途中で子から追い出される心配もなし。
めでたしめでたし…… いやいや、そういう話じゃなかった。

 なんで、それが節税になるのか?

 本来、夫が再婚者で後妻VS先妻の子という図式を想定していたのですが、いざ法律が施行されると、いやいや、普通の夫婦と子供でも使える!
 使えるって何に?
 節税に!

節税に使える配偶者居住権

 ちょっと図で詳しく見ていきましょうか。
配偶者居住権で大きく節税できるパターン

 父の相続財産が2億円(土地15,000万円、建物1,000万円、預貯金4,000万円)で、母と子一人に相続した場合をシミュレーションしてみました。
 配偶者居住権を使うと、約3,000万円も節税になるのです。

 なぜ節税になるかというと、配偶者居住権は原則として妻の死亡時に消滅するため、相続税の課税対象にはならないことを利用したスキームになっているのです。

配偶者居住権は売ったりあげたりできない

 この配偶者居住権は売ったり、あげたりできる権利ではありません。なので、これを現金化して特養ホームに入るなんてことはできないってことだけには注意が必要です。しかし、そういうリスクに注意すれば、十分節税策として使えますよね。
配偶者居住権について、関係法令が詳しく知りたい方は国税庁ホームページに質疑応答事例のページがありますので、こちらをご覧ください。

問い合わせ 入口基本ver 辻元税理士事務所
国税OB税理士による税務調査対策グループ

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