Q 電子帳簿保存法が2024年から本格的に始まると聞きました。何をどうすれば良いか、タイムスタンプ機能って何なのか、わが社でどこまで準備すべきなのか、教えてください。
A 焦る必要はありません。当初のルールが実際には随分ゆるくなりそうですから、法律のエキスをしっかり把握して対応していきましょう。
改正電子帳簿保存法が導入されると決まった時(2021年後半)、Youtubeなどで「対応しないと、大変なことになる!」と煽る動画が立て続けにアップされました。
「電子帳簿保存法に違反すると、青色申告の承認を取り消される恐れがあります。 承認が取り消されると、最大65万円の特別控除が受けられなくなり、欠損金の繰り越しも認められません!」とYoutuberが叫んでいましたね。
しかし、「2022年から施行するから、よろしく」と政府が言った途端、「長年紙ベースでやってきたのに、急にそんなこと言われても無理」の声の大合唱。
結局、「2024年からしてあげるから、ちゃんと2年で準備してください」とトーンを落としました。
そして、ぼちぼち始まるよ~という段階で、さらに骨抜きになりそうな雲行きです。
そもそも、「電子帳簿保存法」って何?というところから話を始めていきましょう。
「電子帳簿保存法」って何?
もともと、電子帳簿保存法っていう法律、ずっと前に成立してたんです。
1998年、「ウィンドウズ95」が発売されて、普通の家庭にもパソコンが普及し始めた頃の話。
簡単に言えば、「紙で保存してると思うけど、データで保存するのも認めてあげる」という法律。
でも、「認めてあげる」ってだけで義務ではなかったので、大した話題にもならず。
そして、今話題の法律は「改正電子帳簿保存法」。
話題になっているのは、「義務」となる部分があるから。
では、何が義務となるのか?
電子帳簿等保存法の「電子帳簿等」には次の3つの種類があります。
①自社、あるいは顧問税理士が作成する総勘定元帳や現金出納帳、棚卸表など
これらはPCで作成して、データで保存します。
これが「電子帳簿等保存」
②自社が作成する請求書や領収書の控え、あるいは相手先から受け取る請求書や領収書などこれらは紙で発行したり、受け取ったりします。
データ保存するなら、紙をスキャンして保存する必要があります。
これが「スキャナ保存」
③そして最後が、もともと電子取引した際にデータで受け取る請求書、領収書など
これが「電子取引保存」
Amazonやヤフオク、メルカリなんかで物品を購入した場合やクレジットカードの利用明細書がイメージしやすいでしょう。
①「電子帳簿等保存」と③「電子取引保存」。
何が違うかと言うと、「電子帳簿等保存」は自社で作成したもの、「電子取引保存」は取引先や金融機関といった自社以外で作成されたもの、という違いですね。
この3つ目の「電子取引保存」が義務化の対象になった部分。
それ以外の紙のものは、紙で保存してもいいし、電子で保存してもいい。
請求書の控えが紙なら、紙のまま保存してもよい。
得意先から受け取った紙の請求書、領収書も、紙のまま保存して構わない。
ただし、amazonやヤフオク、メルカリなんかで物品買った時の請求書、領収書なんかは紙でプリントアウトしたらダメ。データで保存しておくように。
クレジットカードの利用明細やネットバンキングの振込履歴や入出金履歴もデータのものは、データで保存しておくように。
これが、今回の改正のエキス。
電子取引をさらにかみ砕くと、次の表のような取引ですね。
では、保存したデータをどうやって保存する?
電子データで保存するのは、そんなに難しいことではないですよね。
Amazonの電子領収書の画面で「印刷」をクリックし、「送信先」を「PDFに保存」とするだけ。
ヤフオクなら、「おめでとうございます!!あなたが落札しました。」の画面を同様にPDF印刷するだけ。
問題はこうした保存手段ではなく、保存したデータの「検索」と「正しいものだという保証」を担保するハードルが高いということなんです。
具体的には、税務調査の際に調査官から
●「2023年3月14日に計上されている消耗品52万円の請求書を確認させてください。」と問われた際にすぐに提示できるか
●その請求書が画像修正ソフトなどで加工されたものでないと言い切れるのか。正しいのか。
という問題。
この「検索性」と「真正性」について、説明していきましょう。
「検索要件」とは?
書類を電子データで保存することはさほど難しいことではないことは、先ほどご説明いたしましたよね。
ただ、これを税務調査の際にデータ検索できるようにして、調査官がスムーズにデータ収集できるようにしておくってことが非常にハードルが高いわけです。
当初の法律では、「売上げ1,000万円以上の事業者はすべて、取引年月日、その他の日付、取引金額、取引先ごとにソートできるほか、範囲指定して絞り込めるようにしておく」ように求めていました。
しかし、2023年税制改正では、売上げ基準を1,000万円から5,000万円に引きあげられました。
税務調査の際に必要な書類を提出さえできれば、売上高が5,000万円以下の事業者は検索機能がなくても構いません。
緩和されたとは言え、売上げ5,000万円以上の事業者は、この検索をできるようにしなくてはいけませんので、これは悩ましいところ。
売上げ5,000万円以上で取引件数の多い事業者は、2024年以降、電子帳簿保存法に対応した会計ソフトを導入した方が賢明かもしれません。
取引先がそこまで多くない事業者の方は次のようなexcelで簡単な検索簿を作って、年月ごとのフォルダにファイルを保管しておく方法もアリです。
でも、やはり面倒であることは間違いないですね。
検索要件をしなくても許してくれる相当の理由とは?
電子取引保存帳票の検索については、検索簿を作って検索要件を満たす。これが原則。
では、例外は?
はい、例外、あります。
2024年1月以降、相当の理由があれば、「紙保存は許さないけど、検索要件等は満たさなくても許してくれる」と規定されています。
では、検索要件を許してくれる条件とは何でしょう?
要件として挙げているのは次のとおり。
条件1と2の「相当の理由」については、国税庁はこう発表しています。
「事業者の実情に応じて判断するものであるが、例えば、システム等や社内のワークフローの整備が間に合わない場合等がこれに該当する」という。
さらに、その理由として「資金繰りや人手不足等」も認められるとのこと。
このアナウンスであれば、日本の中小企業の多くが、2024年以降も検索要件については許してもらえそうですよね。
真正であることの証明
次にどうやって電子取引保存帳票が真正であることを証明するか。
これ、費用さえかければ、簡単にできます。
普及している会計ソフトに追加する形で、「改正電子帳簿対応セット」を購入すれば、できます。
仕訳をクリックすれば、保存された請求書データに飛びます。これで検索性はOK。
「真正性」は「タイムスタンプ」という機能が保障してくれます。
「タイムスタンプ」とは電子データと時刻が組み合わされて構成されており、
●スタンプを付与する時間にデータが確実に存在していること
●スタンプの付与を受けた時間からデータが変更されていないこと
この2点を証明してくれます。
時刻認証局(TSA)が発行していますから、信頼性抜群です。
じゃあ、これを導入すればいいじゃないですか。
はい、そうなんですけど、先立つものが必要ですよね。
中小企業の多くは、金銭的にも労力的にも、ハードルが高い気がします。
タイムスタンプでなくてもいい
実は、真正性を確保するためにできることとして、タイムスタンプ導入以外にも策はあるのです。
会社で「事務処理規程」を整備するという方法です。
サンプルはこちらにありますので、ダウンロードしてみてください。
法人サンプル
個人事業者サンプル
個人事業者はこのサンプルをそのまま使用して構いません。
法人の場合の注意点としては、
第4条(電子取引の範囲)に、「ECサイトでの購入明細・領収書等の受領」、「クレジットカード、ICカードで決済した利用明細の授受」などを加えて、自社に合致した様式とすること
第5条(取引データの保存)の年限は7年(会社法に定められているものは10年)
第8条(訂正削除の原則禁止)は必須項目なので省かないこと
などでしょうか。
この規程を作って、このとおり運用していれば、真正性についてはタイムスタンプを無理やり導入しなくてもOKです。
法律に関係なく、電子化はしていくべし
今回の電子帳簿保存法が骨抜きになったという状況について説明してきました。
「じゃあ、しばらく何も対応しなくていいな」と思われた方もいるかもしれません。
ただ、経理って紙ベースでやっているとめちゃくちゃ時間がかかります。
いまだに預金通帳やクレジットカード明細から会計ソフトに入力している方がいらっしゃいますが、そのやり方は完全に時代遅れです。
預金通帳もクレジットカード明細も、今やほとんど電子化されているのに、わざわざこれをプリントアウトして、これをまた電子化するってムダの極致なんですね。
紙での保存も、7年間分保存するとなると、事務所の納戸は昔の書類だらけって会社がいまだに結構あります。
こうしたムダを少しずつでも、無くしていくのに、今回の電子帳簿保存法を良いきっかけにしてほしいと思いますね。
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