退職金制度、ウチの会社も作った方が良くない?基本ノウハウ編

退職金制度を作ろう(規程&運用)

Q  弊社は会社を設立して12期目に入ります。会社の規模も大きくなってきましたが、退職金制度はいまでに作っていません。
 新卒採用時に学生から「退職金制度はありますか?」と聞かれることも多くなり、そろそろ作るべきかなと考えていますが、何をどうしていいのか分かりません。
 とりあえず、基本的なことだけでも教えてください。
A  退職金規程を作るための基本をまずは学んでいきましょう。

退職金や年金というのは、複雑で難しいですよね。正直、私も全て分かっているかと聞かれたら全体像の半分も分かっていないかもしれません。
しかし、大枠だけでも分かっていれば、いつか退職金規程を来る時に役立つことになるでしょう。
全てを説明することはできませんから、ざっくりこういうことを決めておかなくてはならないんだな、というイメージだけでも掴んでいただこうと思います。

まず、なぜ退職金制度を作ろうと思ったのでしょう?
退職金制度の4つの目的から話を始めましょう。

退職金規程を作る4つの目的

退職金規程を作る目的

①優秀な社員を採用するため

退職金制度がある企業の割合をまずお示ししましょう。
退職金制度の導入状況
(出典:厚生労働省「就業条件総合調査」平成30年

日本の企業の実に8割以上が退職金制度を持っていることがお分かりいただけると思います。
そんな中で、新卒者が「退職後のことまできちんと考えてくれている会社」と「そうでない会社」のどちらを選ぶでしょうか。
安定した会社を選ぶのは自明の理ですよね。

②社員に長く勤めてもらうため

会社がせっかく社員にスキルやノウハウといった教育をしても、すぐに退職されたり、競合他社に転職されてしまっては、ダメージが大きいですよね。
こうしたリスクを減らすため、「短期で退職したら損ですよ」というメッセージを退職金規程を通じて、社員に送ることができるんです。
さらに、会社で長く活躍すれば、たくさん退職金をもらえるという建付けにするなど、どういった社員に長く働いてほしいかを明確にするという効果もあります。

③社員の退職後の生計を保障してあげるため

国は退職後の生活を支えるために、年金制度と失業保険という2つの制度を準備していますが、これでは昨今の状況からして心もとない。
これを補完するための制度として、会社の退職金制度があると、社員は安心して働けますから、モチベーションが上がります。
逆に、会社からすると、様々な事情で辞めてもらいたい社員に対して「手切れ金」的に活用できるメリットもあります。

④税務・財務的なメリットを活用するため

4つ目は人事・労務的な切り口ではなく、税務・財務的な切り口でのメリット。
例えば、月給60万円の社員が1年間働いた場合の手取額と、同じ額を退職金でもらった場合の手取額を比べてみましょう。
給与と退職金の社会保険と所得税負担の違い
社員の手取額は、退職金の方がなんと142万円も多い。
加えて、会社側も社会保険料の負担が108万円も少なくなる。
国は老後の生活の糧となる退職金には優遇を与えているんですね。
社員にしてみれば、できる限り満額もらいたいと考えるのは自然なことです(今もらえないという弱点はあるにせよ)。
会社の方も、社会保険料の負担が減ることに加え、払えるものは後回しにしてもらった方が助かることになります。

決めるべきこと(報酬ルールと制度運営ルール)

退職金規程を作る目的がお分かりいただいたところで、では何をどうすればいいのか?
決めるべきことは大きく2つ。
一つは、報酬のルール
つまり、誰にいつ、いくら支払うのか、その計算方法や時期などを定めたルールですね。
もう一つは、制度運営のルール
報酬のルールで決めた退職金をどのような方法で積み立て、運用し、社員に支払うのかを定めたルールです。
この2つはどちらかが欠けても機能しません。いわば、車の両輪のような関係にあると言えるでしょう。

退職金規程 報酬と制度運営のルール
では、まずは報酬のルールから見ていきましょう。

報酬のルール(範囲と支給制限)

まず、誰にどのような退職金を準備するのか。その範囲
一昔前は、退職金と言えば、正社員にしか支払われませんでしたが、現在は同一労働同一賃金の考え方が浸透してきていますので、正社員以外への支給も進んできています。
しかし、たとえ契約社員やパートに退職金を支払うと決めたとしても、正社員とは異なる制度(一時金制度や感謝金制度など)にするのが一般的ですね。
次に、支給制限

退職金を支払う対象を以下のように絞るということ。
以下のいずれかに該当した場合、退職金を支給しない。
〇勤続期間3年未満の者
〇懲戒解雇処分を受けた者
長期的に働いてほしい、あるいは綱紀の保持を促すためにこうしたルールを設けることが多いですね。

報酬のルール(算定方式)

範囲と支給制限を定めたら、次に、具体的に年数や貢献度など、どういった算定方式で退職金の金額を決めるのか、を決めなくてはいけません。
主な算定方式を見ていきましょう。
退職金の算定方式
大きくは2つに大別されます。
一つは「賃金に連動するタイプ」、もう一つは「賃金とは切り離して決めるタイプ」。
前者の代表である「最終給与連動方式」と後者の代表である「ポイント制方式」について説明していきます。

最終給与連動方式

退職時の月給(基本給のみ)に勤続年数や年齢、退職事由等から決められた支給率を乗じた額を退職金とする方法です。
最終給与連動方式の算定例
この方法を採用した場合、次の社員は高額の退職金を得ることになります。
〇退職時の月給が高い社員
〇長期勤続した社員
〇定年退職または会社都合で退職する社員
乗じる基礎が月給ですから、賃金制度がそのまま退職金には反映する方式となります。
手間が要らず、社員が将来いくら退職金をもらえるか想像しやすいというメリットがある一方で、貢献度が反映させづらく、中途採用者にとっては不公平となるデメリットがあります。

ポイント制方式

高度成長期の年功序列型会社では都合が良かった賃金連動型の退職金算定方式ですが、バブル崩壊後のリストラ断行事例の増加に伴い、仕事の成果に応じて従業員を処遇する成果主義的な賃金制度が注目されるようになってきます。
退職金についても、社員の在職中の企業への貢献度を退職金額に反映できる、ポイント制退職金制度が受け入れられ始めました。

また、ルールや法改正により、同一労働同一賃金の厳格化により、正社員と非正規社員の職務内容の相違について明確な説明ができない場合など、非正規社員に対しても退職金を支給しなければならないケースが生まれることになりました。
そんな中、年功主義的な退職金制度を導入し続けていると、退職金コストが経営を圧迫するリスクは高まります。

その結果、最近ではポイント制方式を導入する会社が増加傾向にあります。

会社は、1年ごとに社員にポイントを付与し、社員は入社から退職までに蓄積したポイントに単価と支給率(会社都合か自己都合か)を乗じた金額を退職金としてもらえます。
退職金ポイント制方式の算定例
①ポイント項目
まず、何を基準にポイントを付与するかを決める必要があります。
退職金ポイントの付与項目
多くの場合、複数のポイント付与項目、特に職能と勤続の2大項目を組み合わせて、退職金制度を組み立てていきます。
②単価
次に単価。
1ポイント当たりいくらの退職金を支払うかのレートのこと。
なぜ、わざわざポイントと単価に分けているかというと、退職金の見直しをする際に単価を変更すれば、全体の水準を見直すことができるからです。
例えば、単価10,000円を10,500円に変更すれば、ポイントをいじらなくても、退職金の水準が5%上げられます。

ポイントを何にするかは、会社が何を重要視しているかが反映されることになります。
退職金ポイントの考慮要素
平成29年度民間企業における退職給付制度の実態に関する調査研究報告書(㈱ナビットHPより引用)

職能・資格や職務を重視すれば成果型の退職金制度となり、勤続年数や年齢などを重視すれば年功重視型の退職金制度となります。
会社にとってのメリットは、何と言っても賃金制度とは切り離して運用できること。
賃金では露骨に成果主義にできなくとも、退職金は成果を重視できる、あるいはその逆。そういった自由度が高いということですね。

逆に、社員にとっては蓋を開けてみないと、いくら退職金がもらえるのか分からないというデメリットがあります。
資産運用 退職金をどう運用?

制度運営ルール

ここまで、退職金をどう支払うか、という報酬ルールについて見てきました。
ここからは、車の両輪のもう一つ。規程に定めた退職金をどのように運営するか、について見ていきましょう。

自社運営か外部活用か

小さな会社では、退職金を自社で準備して、それを支払うというシンプルな形をとっているところもあります。
その一方で、退職という事態が起こる前に外部機関に資金を積み立て、そこから退職金を支払うという形をとる会社が非常に多いです。
外部機関とは、「中小企業退職金共済」「特定退職金共済」「確定拠出年金」「確定給付企業年金」などの国の退職金制度を活用したり、生命保険を活用する方法ですね。
なぜ、この形を採用する会社が多いのか?
理由は、制度運営を任せられることはもちろんのこと、税制上の優遇措置があるからなんです。
つまり、外部活用した場合の積立額は経費にできるということ。

具体的に説明しましょう。
会社の利益が5,000万円、社員の退職金積立必要額が2,000万円であった場合、自社運営の場合だとこの積立額は経費にならず、納税後の利益から拠出しなければなりません。
しかし、外部活用した場合は、積立額が経費になることにより、納税額が1,500万円から900万円に減少した結果、後に残る金額が600万円増えます。
もちろん、社員が退職した時には自社運営でも外部活用でも最終的に支払う税金合計は同じですが、外部活用の場合の方が資金繰りを随分助けてくれるはずです。

退職金運営 自社運営と外部活用

外部活用の企業年金を比較

さて、外部活用の制度運営が自社運営より会社にとってベターであるとご理解いただけましたか?
では、実際にどの外部機関を活用するのか、比較した一覧表をご覧ください。

企業年金の比較

それぞれメリットとデメリットありますが、個人的な意見としては、中退共は簡単だけれども、「会社に給付が支払われることが絶対にない」というところが引っ掛かります。
問題を起こして、懲戒免職になった社員にも、競合他社へ移る社員にも同じように支払われるって、どうなんでしょう。
中小企業にとっては、少ないコストではじめられる確定拠出年金401kがベストなのかなと感じています。
確定拠出年金制度というものが、会社にあるから社員は辞めないという離職防止にも繋がるのではないでしょうか。
確定拠出型年金の規約数、加入者数推移
企業年金連合会「確定拠出年金の統計」より引用)

事実、確定拠出年金は着実に加入者数を伸ばしており、加入者数は750万人に達しています(令和3年3月現在)。
ただ、隠れた欠点として、会社がラインアップした商品は取引金融機関が用意した商品であるが故に、高い手数料を支払わなけらばならない商品しかラインアップされていないと、ワリを食うのは手数料を支払う社員ということが挙げられます。
同じ確定拠出年金の個人型iDeCoは個人が商品を自由に選ぶため、競争にさらされることから手数料はどんどん下がっていますが、企業型は金融機関が強い立場にあるため、なかなか手数料が下がらない(金融機関側にとってオイシイ収益源)んですね。
会社側は確定拠出型年金を採用するのであれば、こうした運用商品の準備(手数料の高低やリスク性の高低の幅をもたせる)や社員への投資教育(リスクや転職時のポータビリティ)をしっかりする覚悟が必要です。

問い合わせ 入口基本ver 辻元税理士事務所

国税OB税理士による税務調査対策グループ

 

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