Q わが社は警備業を営んでいます。勤務する警備員の大部分の者との間で業務請負契約書を結んで、外注費扱いにして源泉所得税を徴収していませんでした。今回の税務調査において、これらは外注費ではなく給与であると認定され、給与に対する源泉所得税課税漏れと消費税仕入れ税額控除を否認されました。請負契約を交わしていても給与になるのでしょうか。
A 実態で判断するため、請負契約書を交わしているだけでは外注扱いにはなりません。
給与か外注費か、この議論は昔からされています。
消費税の仕入れ税額控除の対象となる、源泉所得税や社会保険料がかからない、といった理由から給与を外注扱いにする例は巷にあふれています。
税務署としては、消費税率が高くなるにしたがって、さらに厳しくチェックするテーマになっています。
まず、税務調査で外注費扱いしていたものが給与と認定されれば、どうなるか?
税務調査でアウト!になった場合
法人税には大きな意味では影響しません。外注費であろうが、給与であろうが経費であることに変わりはありませんからね。
税額が発生するのは次の3つ。
① 源泉所得税
外注費には、当然源泉所得税の天引きなんてしていません。
これが給与となると、「源泉所得税を天引きする必要がありましたよね?」となります。仮に月50万円を支払っていた外注先が2先あったとしましょう。
会社としては、この外注先2先から「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出を受けているはずもありませんから、乙欄課税されてしまいます。
月額50万円の支給に対して、源泉所得税は146,800円。それが2人で146,800円×2=293,600円。1年間なら3,523,200円
② 消費税
外注費なら消費税が仕入れ税額控除に算入できていましたが、給与は非課税なので、仕入れ税額控除には入れられません。
1か月の消費税は50万円に対して、45,400円。それが2人で90,800円。1年間なら1,089,600円
③ 加算税・延滞税
加算税は過少申告加算税が課税されます。①②に対して課税されます。基本的には10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%ですが、ここでは分かりやすくするために10%に)なので、45万円。
そして延滞税。これは本来納付期限までに納めるはずだったのに、遅れてしまいましたよねという税金、いわば利息ですね。
2年、3年と遡られると、利息が増えるので、延滞税は高くなります。納付する時期によって変わってきますので、正確な計算はできませんが、15万円程度としておきましょう。
外注費1,200万円が給与と認定されれば、税金を1年だけで合計5,212,800円も支払うことになる。
源泉所得税は、税務調査後に外注先から集金できたとしても、一時にこれだけ支払うのはどえらい負担ですよね。
税務調査で否認されないための対策が必要ですね。
(2022年2月21日 ニュース報道から引用 大阪国税局による告発)
給与と外注費、この2つの区分の判断基準は、時間的・空間的拘束があるか、物品の支給があるかなど、事実関係を総合的に勘案して判断する、となっています。
「総合的に勘案」って難しいですよね。
もう少し具体的に見ていきましょう。
法律や通達にはどう書いてある?
法律上、給与所得とは所得税法第28条において、「俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」と規定され、また、事業所得とは、所得税法第27条及び施行令第63条において「農業、漁業…その他サービス業ほか、対価を得て継続的に行う事業から生ずる所得」と規定されています。
当たり前すぎて、ピンときませんね。
今のところ、この法令に関する取扱通達はありませんが、昭和26年1月1日付直所1-1という昔の通達で、次のように総合勘案して判断するように、と書かれていました。
- 当該契約の内容が他人の代替を容れるかどうか
- 仕事の遂行に当たり、個々の作業について指揮監督を受けるかどうか
- まだ引渡しを了えない完成品が不可抗力のため滅失した場合等において、その者が権利として報酬の請求をなすことができるかどうか
- 所得者が材料を提供するかどうか
- 作業用具を供与されているかどうか
この古い通達は、昭和45年の所得税基本通達の制定時に廃止されていますが、その理由は当たり前すぎるからという理由でしたし、以後この考え方に影響する法令改正が行われていませんので、現在もこの古い通達の考え方が重要な判定基準として取り扱われているのです。
一覧表にすると、次の通り。
給与と外注費の判定一覧表
税務調査の現場での判断
では、実際に税務調査の現場では、どのように判断しているのでしょう?
上記の判定一覧表に基づいて、調査法人の場合はどうなるかを一つ一つ当てはめていきます。
【調査官が作成した給与と外注費の判定表】
どうでしょう。
ホントは給与なのに無理やり外注費扱いにすると、どこかで無理が生じてしまうものなのです。
契約書を交わしているだけじゃ給与認定される
このように、実態を伴わないまま、安易に外注費扱いにすると、税務調査で給与と認定を受けるリスクがあるということを押さえておいてください。
どうしても外注費扱いにしたい、ということであれば、これらの要件を満たすように工夫が必要です。
あくまでもこれらの要件を総合勘案するのですから、全部の要件を満たさなければならないというわけじゃないんです。
ポイントは、5要件のうち満たしている要件は多ければ多いほど「給与じゃない」と主張しやすいということです。
労基が年金事務所へ通報する取り組み開始
税金からは離れますが、会社が外注として請負契約している人について、労働基準監督署が「実際は外注ではなく、給与」と判断した場合、年金事務所に情報提供する取り組みが令和5年4月から始まっています。
外注先と円満に取引している場面では大丈夫ですが、気をつけなければいけないのは、この外注先とモメた場合。
外注先が会社から解約されたことを不服として、労基署に駆け込むことがあります。
相談を受けた労基署は会社を調査し、先程の5要件を満たしていることや1日1万円という日額での支払い形態から、実際には外注ではなく、給与(雇用関係にあった)と認定するに至るパターンが結構あります。
今後は、労基署がこの情報を年金事務所に通報し、年金事務所が過去に遡って莫大な保険料を会社に支払わせる可能性が出てくることになります。
税金の側面だけでなく、社会保険料の負担も大きくなっている現在、先程の5要件を満たすような工夫とともに、外注先と良好な関係を常に築いておくことも大切になってくるでしょう。
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